姉は180cmだが私はどこまで伸びるのか

 三つ年下の男の子に告白された。

 頭一つ小さい小学生…身長を追い越したら良いよ。

 それから3年、中学生になった彼は172cm、女子高生になった私は175cm…。

「あと3cm以上、絶対に追い越してやる」

 牛乳片手にそう告げた彼を他所に、私は必死にこれ以上伸びるなと賽銭箱に小銭を全部ぶちまけて神頼みをした。


***


「好きです! 恋人になってください」


 人生で初めて告白された。

 見下ろすのは、小さな頭と使い込んだランドセル。三つ年下の男の子に告白されたのだ。

 私よりも頭一つ小さい小学生。90度のお辞儀で頭を下げているけれど、耳が真っ赤になっている……可愛い。

 嬉しいけれど、何だか複雑な気分になった。


「身長を追い越したら良いよ」

「本当に?」

「うん」


 自分よりも背の高い彼氏が欲しいという、微かな願望を抱いても良いでしょう。きっと彼も、中学生になれば一気に身長が伸びてカッコいい男の子になるはずだ。

 それから3年経った。中学2年生になった彼は、172cm。しっかり伸びた。

 私も女子高生になった。高校2年生。この間、身長を計ったら175cmになっていた。がっつり伸びた。

 そうだ、父は190cmあったんだ。遺伝子よ、張り切って仕事をしてくれるな。血の繋がりが恨めしくなる。

 モデル体型と羨ましがられても嬉しくない。身長が欲しい!と言っている人に20cmぐらい提供したい。


「あと3cm以上か。絶対に追い越してやる。それまで、絶対に彼氏を作るなよ」


 牛乳片手に宣戦布告した彼は、立派に男になっていた。

 学校でも女子に人気らしい。何度か告白を受けたけれど、全部断ったと言っていた。

 彼と別れた後、私は近くの神社へ駆け込んだ。賽銭箱に財布の中の小銭を全部ぶちまけて、派手に柏手を叩いて神頼みをする。


「どうかこれ以上! 私の身長が伸びませんように!」


 約束を反故にする度胸も、彼から牛乳味のキスを受け取る覚悟もまだ準備できていないのに、期待している私がいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る