目線が同じだと喜んだのはついこの間の出来事

 初めて息子を目にした時、本当にコレが人間になるのかと訝しんだ。

 母になるという自覚よりも、きちんと大きくなってくれるのかという不安の方が大きかった。

 私の胎の中にいる鼓動を始めたばかりの15mm。それから18年、母を見下ろす息子は187cm…ちょっと大きくなりすぎでは、と今日も弁当を詰める。


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 初めて息子を目にした時、本当にコレが人間になるのかと訝しんだ。

 母になるという自覚よりも、この子がきちんと大きくなってくれるのかという不安の方が大きかった。

 あまりにも小さくて、不安定で、脆そうで、曖昧な姿のこの子はこれから手足が生えるのだろうか?

 妊娠15週目。私の胎の中にいる、鼓動を始めたばかりの15mm。主治医から手渡されたエコー写真にいる楕円型の息子……この頃は、息子か娘かも分からなかった。

 きちんと五体満足で産まれてきますように。

 神頼みをしながらそっと撫でた胎から出て来た息子は、早産故に2500gにも満たなかった。それでも、よく食べてよく眠る息子だった。

 大病もせずにすくすく育ってくれたが、小学校高学年の頃から体調を崩し始めた。どうやら、一気に身長が伸びてしまったせいで内臓の成長が追いつかず、血の巡りが悪くなっているらしい。

 真っ青な顔で起床し、学校に行ってもすぐに貧血を起こして倒れてしまう。思うように学校に通えず、担任教師には怠け癖と断言されて理解を得られず、夫が校長室に直訴に乗り込んだこともあった。

 あの頃が、息子も私も一番辛い時期だったかもしれない。それでも、子の成長が嬉しかった。初めて目にした時は15mmしかなかった息子が、それから18年……今では、立派に母を見下ろしている。


「今日の練習は何時まで?」

「7時過ぎると思う」

「夕飯は?」

「食べる!」

「寄り道でカツサンドはやめときなさいよ。またお小遣いなくなっても知らないからね」

「いいだよ。腹減るんだから!」


 中学校から体調も安定し、バスケを始めた息子は今や187cm……ちょっと大きくなりすぎでは?

 と、今日も今日とて、腹を空かせる息子のために弁当を詰める。

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