セオリー通り掛け軸の裏にあった
祖父の遺した巨額の遺産を巡って親族誰もが狂い始めた。
親族たちは殺し合いを始め、逃げ出した私は祖父の自室へと追い込まれた。
誰かが屋敷に火を点けた…逃げられない。死を覚悟した私は倒れ込んだ。
屋敷が燃えている。私は生きている。
まさか、祖父の部屋にどんでん返しの秘密の抜け穴があったとは。
***
一族の独裁者だった祖父が亡くなった。
誰にも対しても傲慢で、あちらこちらから恨みを買っていた祖父は、巨額の遺産を築き上げていた。
伯父や叔母や、祖父のいとことかその孫とか、甥の嫁の長男の親友の孫とか、よく分からない親族が集合した葬儀の場で、弁護士によって祖父の資産額が読み上げられる。その場にいたほとんどの者が目の色を変えた。
祖父は遺言を残していなかったため、遺産相続は法律に準じて行われる。しかし、私のような直系筋の孫ならまだしも、遠縁たちは納得いかなかった。
罵倒する中年男性。猫なで声で懇願する若い女性。泣いて頭を下げる若い男性……屋敷の中に欲望が渦巻いている。ドロドロと澱んだ空気の中で、親族誰もが狂い始めた。
最初に手を出したのは祖父の弟だった。飾られていた刀を抜いて、伯父を斬りつけたのだ。
堰を切ったかのように、親族たちは殺し合いを始めた。骨董品の壷で殴り、ダイヤの首飾りで首を絞め、金細工のナイフで刺した……私は一目散に逃げだした。
だが、玄関は他の親族が待ち構えている。屋敷の面積が広大すぎて、裏口もどこにあるか分からない。
一心不乱に逃げた私は祖父の自室へと追い込まれた。鍵をかけて立て籠もったが、破られるのも時間の問題だろう。
ガタガタ震えながら部屋の隅にある床の間で小さくなっていると、焦げた臭いが鼻についた。ドアの隙間から黒い煙が入ってきている。
誰かが屋敷に火を点けた……逃げられないな。死を覚悟した私は、全てを諦めて床の壁に背を預けると、倒れ込んだ。
「……燃えている」
屋敷が燃えている。私は……頭にたんこぶができる程度の怪我はしたが、生きている。
まさか、祖父の部屋にどんでん返しの秘密の抜け穴があったとは。床の間の壁が回転して、その裏にあったスロープを滑り落ちた私は頭を強打したが、こうして無事に屋敷から脱出できたのだ。
敵が多いのを自覚していたから、あの抜け穴を造ったのか。それとも、ただ面白半分で造ったのだろうか?
「面白がって造ったんだろうな」
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