君の記憶と、君の籍の記録に残りたかった

 私は結婚すると死ぬ呪いにかかっている。

 職場の先輩は独身を弄られる度にそう豪語していた。

 女として魅力はないが、人間としては非常に魅力的な彼女に何度もアタックして頼み込んで、昨日結婚した。

 俺の隣で彼女は冷たくなっていた…何で、どうして俺なんかを命がけで愛してくれたんですか、先輩。


***


「私は結婚すると死ぬ呪いにかかっている」


 俺がお前と同じ歳の時は、もう息子が中学生だったぞ。

 良い人はいないの?紹介しようか?

 早く結婚しないと、寂しい老後になるぞ。

 職場の口五月蠅い年長者たちが独身の先輩を弄る度、彼女はそう豪語して話題をはぐらかしていた。

 30代半ば、同期はみんな結婚して子供もいる。独身なのは彼女だけ。勿論、仕事はバリバリする。

 でも、彼女は非常に魅力的だ。女としてではなく、人間として。

 俺は先輩が好きだ。

 何度もアタックしてはフラれ、頭を下げては罰ゲームはやめろと苦笑され。真正面から「好きです!」と告げたら、こんな年増はやめておけと怒られた。


「うちの家系はね、元は貴族だったんだって。娘を片っ端から権力者に嫁がせて、子供を産ませて、その子供を使って贅を貪って。そりゃ、とんでもなく各方面から恨まれていた。だから、呪いをかけられた。娘が結婚すれば、子孫も残せず死ぬ呪い」

「ンな馬鹿な。そんな話、信じるとでも思っているんですか?」


 何度も何度も、俺は先輩にアタックした。こんな非現実的な話を持ち出されても信じない。貴女を死なせない、幸せにします!と、いい加減にしろと叫ばれても粘って、粘って……遂に、彼女が受け入れてくれた。

 照れ臭そうに微笑んだ可愛らしい先輩を抱き締めて、昨日結婚した。

 同じベッドで迎えた朝……彼女は、俺の隣で冷たくなっていた。


「私は結婚すると死ぬ呪いにかかっている」


 彼女の死に顔は、告白を受け入れてくれたとき以上に美しく、幸福に満ちていた。

 何で、どうして?

 俺なんかを命がけで愛してくれたんですか……先輩。

 俺の籍には先輩の記録がしっかりと残った。忘れられない妻の記憶は、延々と、俺が彼女の元へ逝くまで残ることになる。

 いつか必ず、今度は呪いなんてない世界でまた、会いたい。

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