無言でテレビを消した

 見慣れない俳優の刑事ドラマが放送されていた。

 凶悪な殺人犯と熟練の刑事との頭脳戦。刑事は身体を壊して入院し、後輩に後を託す…いよいよ決着の時、彼は病身を押して駆け付けた。

 見事な逮捕劇だった。何てドラマだろうか?

『無茶できた理由? それは…これのお陰だ』

 ケール入り健康青汁! 今なら…。


***


 休日出勤の振り替えで、急に平日休みが降って来た。が、外は大雨だ。天気が悪いと外出する気がしない。

 時刻は午後2時過ぎ。暇になった。手持ち無沙汰にリモコンを弄りながらチャンネルをザッピングしていると、見慣れない俳優の刑事ドラマが放送されていた。


『山本さん、またあいつが……!』

『あの野郎、まだ罪を重ねるつもりか!』


 死体のクオリティが雑だな。今、微かに動いた。

 どうやら刑事たちは連続殺人事件を追っているようだ。犯人は無作為に殺人を犯しているように見えて、実は被害者たちには共通点があった。

 凶悪な殺人犯と熟練の刑事との頭脳戦が繰り広げられ、犯人には逃げられたが次の殺人を食い止めることができた。だが、熟年の刑事が倒れ、そのまま入院してしまったのだ。


『山本さん……』

『俺も年を取っちまったな。これが、定年最後の事件だ。山田、奴を止めるんだ』

『はい!』


 後輩である若い刑事に全てを託し、彼は遂に犯人を崖の上に追い詰めた。やっぱり崖なんだ。

 刑事が推理を突き付けるが、犯人は認めずにのらりくらりと否定を続ける。決定的な証拠がない……諦めかけた、その時だった。


『これが、お前が現場に残した証拠だ!』

『っ! 山本さん!』


 入院中だった熟練の刑事が、病院から抜け出して崖に駆け付けたのだ。決定的な証拠を突き付けられた犯人は、最後の抵抗と言わんばかりに若い刑事を道連れにして崖から飛び降りようとした。

 しかし、熟練の刑事に取り押さえられて手錠がかけられる……良いクライマックスだった。

 ちょっとチープなところもあったが、見事な逮捕劇で幕を閉じた。何てドラマだろう?


『しかし山本さん、どうしてこんな無茶ができたんですか?』

『無茶できた理由? それは……これのお陰だ』

『刑事の山本さんも愛用! ケール入り健康青汁! 日々の栄養不足補い、定年後も若々しい毎日を! 今なら……』


 新聞のテレビ欄によると、この時間はテレビショッピングを放送中だった。

 感動を返せ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る