140文字小説まとめ超短編集

中村 繚

それは学校周りのゴミ拾いでの出来事

 君はあの子が好きなんだよね。彼女にそう言われて、一瞬胸がチクリと痛んだ。

 中学生の頃からあの子が好きだ。友人にはバレているし、自分は顔にも出やすい。気付いていないのはあの子だけだ。

 だけど、何故だろうか…転んだ彼女に手を差し出して、握った手の柔らかさを思い出して悶々としているのは。


***


 中高一貫の私立校では、高等部に進学しても周囲の顔ぶれはほぼ同じだ。人間関係が気楽な分、新しい刺激は少ない。外部受験で高校から入学してきた彼女は、数少ない新しい刺激だった。

 学校周りのゴミ拾い。班で別れた生徒たちは、空き缶やらペットボトルやら煙草の吸殻をトングで拾ってゴミ袋へ放り込む。

 その最中に、彼女はアルファルトの段差を踏み外して転び、尻もちを着いた。


「大丈夫か?」

「ちょっと痛い」

「捕まれ」

「ありがとう」


 彼女の手を取り、引っ張り、立たせる。怪我がないことを確認して手を放したその時、多分……無意識だった。無意識に、彼女の向こうに見えた、道路の反対側にいるあの子に視線を向けてしまったのは。


「君はあの子が好きなんだよね」


 彼女にそう言われて、一瞬胸がチクリと痛んだ。

 俺が好きなあの子。中等部から現在まで、学年一番の美少女と言われる美しい彼女が中等部の頃からずっと好きだった。同じクラスにもなった、同じ委員会にもなったし、友人としての距離を保ってずっと片思いをしていた。

 友人にはバレているし、自分は顔にも出やすい。きっとみんな知っている。気付いていないのは、片思い相手であるあの子だけだ。

 俺が好きなのは、あの子だ。

 だけど、何故だろうか……握った手の柔らかさを、意外にも小さかった彼女の手の感触を思い出して悶々としているのは。

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