それは学校周りのゴミ拾いから始まった
最初に君と手を繋いだのは高校生の時。転んだ時に手を差し伸べてくれただけ、それだけだったあの頃。
絵画展を見に行こう。
左手にチケットを持って右手を伸ばす君の手は、あの頃よりも大きく硬くなっていた。
あの頃から幾数年経った手を取って、私の手の皺と君の皺を合わせてその手を握り続けよう。
***
中高一貫の私立校では、高等部に進学しても周囲の顔ぶれはほぼ同じだ。人間関係が気楽な分、新しい刺激は少ない。外部受験で高校から入学してきた私は、数少ない新しい刺激だった。
父の転勤を機に、引っ越し先で有名な一貫校を受験した。思っていたほど閉鎖的な環境ではなく、すぐに同級生たちとも打ち解けられて友人ができた。その友人の中の1人が、彼だった。
学校周りのゴミ拾い。班で別れた生徒たちは、空き缶やらペットボトルやら煙草の吸殻をトングで拾ってゴミ袋へ放り込む。
その最中に、私はアルファルトの段差を踏み外して転び、尻もちを着いた。
「大丈夫か?」
「ちょっと痛い」
「捕まれ」
「ありがとう」
彼は私に手を伸ばしてくれた。私の手を取り、引っ張り、立たせる。これが、最初に君と手を繋いだ時。転んだ時に手を差し伸べてくれただけ、それだけだったあの頃。
その頃、彼には好きな子がいた。この時も、無意識に彼女を視線で追いかけていたよね。
「君はあの子が好きなんだよね」
だけど、人生とはよく分からないものだ。
ゴミ拾いから半年も経たない頃に、彼から告白されて交際に発展した。それから幾数年経った今も、彼は私の隣にいる。
「絵画展を見に行こう」
「どんな絵?」
「フェルメールだ。『真珠の耳飾りの少女』の」
「ああ、知ってる。行ってみましょう」
左手にチケットを持って右手を伸ばす君の手は、あの頃よりも大きく硬くなっていた。何度も何度も、この手を握った。今日も、手を繋いで一緒に出掛けて行く。
これからも、私の手の皺と君の皺を合わせてその手を握り続けよう。手の皺と皺を合わせて、「幸せ」だと、修学旅行で説法を聴いたお坊さんが言っていた。
「千草、帰りにどこかへ寄っていくか?」
「久しぶりに、あの喫茶店に行ってみましょう」
繋いだ手から伝わる熱が、私と彼の幸せなのだ。
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最初と最後の作品は、下記の物語に登場する2人の過去話として想像しました。
『真珠の少女へ』
140文字小説まとめ超短編集 中村 繚 @gomasuke100
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