外見のキャラが勝手に暴走していて今更素を出せないらしい

 うちのクラスに帰国子女がいる。

 ロシア人のハーフでクールビューティーな彼女は憧れの的。同級生にお姉様呼びされている。

 だけど俺だけが知っている…彼女が重度の少女漫画オタクであり、俺に原稿の背景とベタを丸投げしていることを。

 ちゃおを抱えた彼女と角で衝突しなければ知らずにいた秘密だ。


***


 うちのクラスに帰国子女がいる。

 北国育ちの白い肌、薄っすらと灰色がかった瞳、サラサラと流れる色素の薄いロングヘアー。ロシア人のハーフな彼女は、クールビューティーを体現したかのように美しく、学校中の憧れの的だ。まるで漫画のように、同級生にも「お姉様」と呼ばれている。


「お姉様、今日も綺麗……」

「ただ窓際の席に座っているだけなのに、凄い絵になる~」

「日が差し込む窓際で優雅に読書したら絶対に素敵よ!」

「あたしたちが理解できない海外文学とか読んでそう」


 だけど、俺だけが知っている……。


「ベタ終わったぞ、次くれ!」

「待って! 待って、待って……終わらない、終わらないよ」

「急げ! 新人賞の締め切りは、明日の消印有効だ! このままじゃまた原稿落とすぞ!」

「ふえ~ん!」


 彼女は漫画で日本語を覚えたと言っていた。それも、少女漫画。

 なかよし、りぼん、ちゃお、花とゆめ、何でも読む。キラキラでふわふわ、可愛い少女たちが織り成す恋愛ドラマにきゅんきゅんして、その世界に飛び込みたい!と、親に無理を言って来日したらしい。

 そう、彼女は重度の少女漫画オタクなのだ。

 俺に背景とベタを丸投げして、自慢の髪をヘアバンドで上げたジャージ姿で必死にペンを入れている……その姿を見たら、クラスメイトたちは卒倒するだろう。


「別に、クールビューティーキャラになろうと、思ったことなんてないんだよ。気付いたら、こうなってって……少女漫画友達が欲しかったのに、漫画の「ま」の字も話題に出せる雰囲気じゃなくなっていた」


 ちゃおの最新号を抱えた彼女と角で衝突し、外見のせいで勘違いされたクールビューティーなキャラだけが勝手に大暴走していると打ち明けられた。ベタな展開がなければ知らずにいた彼女の秘密だ。

 俺だけが知っている、誰も知らない彼女の秘密。

 取り合えず……デジタルに移行しよう、そうしよう。

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