140文字小説まとめ超短編集

相変わらずトイレの中からノック音が聞こえる

　肉親でも相性が悪いこともある。俺と兄貴がそれ。

　金銭的な問題で２人暮らししているけどとにかくタイミングが合わない。

　洗面所とトイレは必ず被る。今だってトイレに行ったら既に入っている。向こうから聞こえるノック音に苛ついていると…兄貴が帰宅した。

　じゃあ、今トイレにいるのは誰なんだよ…？

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　よく、血の繋がった肉親は好みが似ると言う。好きな食べ物、異性のタイプ、趣味や特技など、似通っていて相性が良い家族は幸せだろう。

　しかし、肉親でも相性が悪いこともある。俺と兄貴がそれ。

　金銭的な問題で俺と兄貴は２人暮らしをしているが、小さないざこざや苛つきがしょっちゅうだ。兄貴と俺は、とにかくタイミングが合わない。

　朝起きて洗面台を使おうとすれば、別の時間に起きているはずなのに必ず兄貴と被る。使おうとすると、兄貴が使っている。

　トイレもそうだ、トイレに行けば必ず入っている。特に、ギリギリのピンチの時ほど長時間入っているので喧嘩になることもある……死活問題だが、非常にくだらない喧嘩である。

　今だって、トイレに行ったら既に入っている。電気が点いているのを確認してノックすれば、あちら側から叩き返された。

トントン

……トントン

ドンドン！

……トントン

　まだか！という意味を込めて強く叩くと、無機質なノック音がトイレの中から返って来た。一言ぐらい、「待って」とか言えよ。

　向こうから聞こえて来るノック音に苛つきながらトイレの前で待っていると……玄関が開いて、兄貴が帰って来た。

「ただいま」

「え……出かけて、たの？」

「ちょっとコンビニ行ってた」

……トントン

……トントン

トントントントン……！

　じゃあ、今トイレにいるのは誰なんだよ…？