第二十四話 『顔の引きつりが抑えられない』
「ぉぉぉおおらっ!」
俺は、目の前に迫ってきたハイオークの首筋へ短剣を押し込む。
ちなみにこの短剣は、クルトが迷宮の壁を変形させて生み出したものだ。
本当にクルトの、もといシャーロッタさんの贔屓がヤバすぎる。
《次元転移を発動します》
俺は次元転移を駆使してハイオークから三メートル程距離を取った。
ハイオークは致命傷を与えられてもなお、俺への闘争本能を絶やさずに向かってくる。
しかし、
《経験値が入りました。》
《経験値が上限に達しました、レベルが上がります。》
「よっしゃ、レベルが上がった!」
ハイオークの奮闘も虚しく、天の声が俺の頭に響いたことをきっかけにハイオークの体は灰となって消えていった。
南無阿弥陀仏。
「レベルも25に戻ったし、そろそろ葉山達と合流するか。」
三十分程レベリングをした今の俺のレベルは、「同調」を使う前と同じレベル25だ。
まだまだ目標とは程遠いけれど、千里の道も一歩からだ。
俺は葉山達との合流地点へ向かう。
今は時間も体力も限られているので、なるべく最速でレベリングをする必要がある。
二人で行動を共にするよりも、お互いに違う狩場でレベリングした方が効率的だ。
多感な高校生の男女が二人っきりでダンジョンに潜っているというのに、あまり恋愛ゲームみたいな展開は起きない。
少し期待していた俺が馬鹿だった。
「おーーい、葉山。」
「あっ、清原君!」
葉山は俺の方へパタパタと走ってきた。
「大丈夫、怪我は無かった?」
「まあ、なんとか攻撃は受けずに来れたよ。葉山は?」
葉山はたまに、母親みたいに心配性になることがある。
まあ、こちらを気遣ってくれているのが分かって、なんだか照れる。
「私も特に問題無いよ。危ない時はクルト君が助けてくれたし。」
『オイラがいる限り、このダンジョンでハヤマ様が危機に陥ることなんてないのさ。』
クルトは、葉山の肩の上で胸を張りながら答えた。
この世界のシステム上、このダンジョン内でクルトに勝てる魔物は居ないらしい。
クルトよりもレベルが上の魔物ならいくらでもが、その魔物たちの支配権をクルトはミリエルさんから預かっているらしい。
裏はあるんだろうが、シャーロッタさんには感謝してもしきれない。
もし俺が昨日シャーロッタさんに出会っていなければ、俺はさっき冥皇と対峙した時に洗脳、あるいは殺クルトがされていたと思う。
すると、クルトが俺の思考を読んだのか、
『安心して欲しいのさ。確かに、ミリエル様はとある目的を成し遂げる為にキヨハラ様の力を借りようと、今色々と便宜を図ってキヨハラ様に恩を売れるだけ売ろうとしているのさ。でも、ミリエル様が目的を達成することでキヨハラ様に迷惑がかかることは無い、とミリエル様は仰られていたのさ。』
と返答してきた。
その言葉を信じるには根拠が無いが、一応心の内に留めておくことにするか。
「ねぇ、清原君はレベルいくつになったの?」
話題を変える様に、葉山は話を始めた。
というか、一旦合流したらレベルを報告し合うって決めてたんだった。
「俺はレベル25になったよ。まあ、なったというよりも戻ったと言った方が正しい けど。」
「おおぉ~~、物凄くレベル上がってるじゃん!」
まあ、半分以上はスキルの「経験値増加」のお陰だろうけど、美少女からこんな風に持ち上げられて嬉しくない男は居ないはずだ。
「葉山の方はどうだったんだ?」
「今はレベル12だよ。クルト君が魔物を次々に運んできてくれるから、どんどんレベルが上がったんだ。」
笑顔でそう報告する葉山。
このたった三十分でレベルを12も上げるなんて。
しかも、「経験値増加」を持たずに。
『オイラが物凄い勢いで魔物をハヤマ様に流したけど、ハヤマ様は大して苦戦せずに全魔物を捌ききっていたのさ。きっと、この三十分で軽く100体以上は魔物を倒しているのさ。普通なら、ダンジョンが回収する人間の負の感情は膨大だから尽きることはないのさ。でも、ハヤマ様が魔物を倒しすぎたことで、今は貯蓄されていた負のエネルギーを使用して魔物をこのダンジョンに召喚しているのさ。』
クルトは、若干笑みを引きつらせながら俺にそう伝えた。
それを聞いて、俺も顔の引きつりを抑えきれない。
というか、最低でもレベル12の人間ができることではないだろう。
「そ、そうか。葉山も十分凄いよ、この短時間で12もレベルを上げるなんて。」
「そうかな、えヘヘ。」
俺の言葉で無邪気に笑っている葉山だが、俺は決意する。
葉山だけは怒らせるのを止めよう、と。
~あとがき~
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