第二十八話 『彼、どうやら追放されたらしい』

 意味深な自己紹介だな。

 まあ、追々事情は聞いていくとするか。


「で、なんでお前はここに居る心当たりってあったりするのか?」

「なにもない。僕はただ、どうしても力が必要になったからダンジョンでレベリングをしていただけなんだよ。」


 予想はできていたが、やはり見に覚えはなしか。

 それなら、深堀する方向を変えるか。


「リトライラ、確かベヒモスと戦い終えたと言っていたな。」

「そうだよ。やっとの思いでベヒモスを討伐して、ちょっとボス部屋で休憩をしていたら急に奥の方にある魔方陣が光出したんだ。それで、興味本位で近付いてみたんだ。あれ、何でかそこからあまり覚えていないな。」


 あともう少しピースが揃えば答えが降りてきそうなんだけどな。

 共通点はベヒモスと戦っていたということくらいか。


「つまりリトライラ、お前はベヒモスを召喚した魔方陣が何故か光り出したから気になって近付いてみたらその魔方陣の効果が発動してしまって、ここに転移してきた、という訳か。なんでベヒモスを討伐したのにも関わらずに魔方陣が光り出したのかが鍵だな。」

「少し違うよ。確かに僕は魔方陣に近づきはしたけれど、その魔方陣からベヒモスは召喚されていていない。というか、ダンジョンのボスモンスターが召喚されるなんてことはないよ。ボスモンスターは基本的にダンジョン内の魔素を最下層で練り上げることで生まれるんだもの。」


 そうなのか?

 でも、ベヒモスはいつもあの魔方陣から召喚されていたんだけどな。

 あと、ホブゴブリンは確か、


「あっ、そういうことか。そうだよ、ホブゴブリンの時はそうだったじゃんかよ!」


 俺が最初にこのダンジョンに挑んだ時、ボスモンスターはホブゴブリンだった。

 ホブゴブリンは転移魔方陣から召喚なんてされなかった。

 つまり、


「今のこのダンジョンは、ベヒモスを他のダンジョンから転移させてくることで召喚していたのだけれど、タイミング悪くリトライラが肝心のベヒモスを討伐していたから、召喚するものが何もない転移魔方陣が現れた、って感じか。」


 ボスモンスターを生み出すのは、相当の負の感情が必要らしい。

 今このダンジョンは負の感情が足りないから、ボスであるベヒモスを生み出す程の能力が無い。

 そのため、負の感情が余っている他のダンジョンからボスモンスターを転送してくることで、このダンジョンの負の感情を温存しているという訳か。

 きっとこの推理は当たっているのではないだろうか。

 まあ、後でクルトにでも聞けば一発で分かるだろう。


「なんか悪い事したな。ラッシュバード帝国だっけ、そんなところからいきなりこっちに召喚してしまって。」

「いや、あなたにとっても今回のことは不可抗力だったと思う。ダンジョンでは何があっても自己責任、これは冒険者の中じゃ常識でしょ。」


 そんな常識知らんがな、としか言えない。

 というか、やっぱりあったんだ冒険者。

 いずれギルドとかにも行ってみたいな。


「それに、たとえ何が起こっていたとしても別にもうどうでもよかったから。」

「どういうことだ?」

「僕、数日前まではそこそこ有名な名家の嫡男だったんだ。でも、先日受けた鑑定の儀で僕が一家相伝の固有スキルを受け継げていないことが発覚してさ、僕は実家から追放されたんだよ。」


 なんだよ、それ。

 息子に才能が無いからって、いきなり育児放棄かよ。

 そんな奴ら、ろくでなしなんて言葉じゃ足りない。


「信じてた許嫁にも裏切られて、僕はもう何の為に生きているのか分からなくなってて。」


 そんな風に思ってしまっても仕方がない。


「あいつらを見返してやりたい。でも、見返そうにも僕はとてつもなく無力だった。」


 ベヒモスを単独で討伐できる程の力というのは、この世界でも有数の実力者だと言えると思う。

 でも、リトライラの目から感じるのは、圧倒的な無力感。

 リトライラが求めているのは、「それなりに名の通っている冒険者」や「十数年に一人の天才」といった次元じゃないんだろう。

 彼の元家族を見返すには、それこそ冥皇のような人外と呼ばれる次元の力が必要なのかもしれない。

 少なくとも、今のリトライラには強くなってやるという感情もあるが、それ以上に生きる目的や意味を失ったことによる、脱力感や諦念を物凄く感じる。


「やけくそでダンジョンに潜っても、強くなればなるほどあいつらとの差を目で見えるレベル以上に感じるんだ。」


 やりたいことは無いけれど、自殺等をする勇気が無いから仕方なく生きている様に見える。

 見返そうにもそれだけの力を得る道筋は絶望的。

 生きる意味、人生の目標、そんなものを一度に全て奪われたら、そいつは果たして未来に希望を描けるのだろうか?


「もう僕は、運命に身を任せて生きていこうかなと思うんだ。今までの人生、僕はうまく行き過ぎていたんだ。きっと、怠惰に幸せを享受し続けていたから、神様は僕に愛想が尽きたんだよ。」


 リトライラには同情する。

 俺だって、同じ境遇ならば同じように絶望し、全てを諦めていたかもしれない。

 しかし、俺はリトライラには同情した上で言おうと思う。

 否、言わなければならないと思った。

 だって、俺のスキルがリトライラの言葉を否定してくれているのだから。



~あとがき~


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