第二十九話 『証明してやる』

「おいリトライラ。お前には同情するよ。きっと俺だって、お前と同じ状況ならそうやって未来に希望を持つことは諦めていたと思う。希望を持てば、それを失った時の絶望は計り知れない。」

「あなたには分からないよ。だって、あなたにはまだ生きる目的を持っていて、それを成し遂げてやろうという活力を感じる。僕とは真逆だ。」


 その通りだ。

 リトライラと俺の環境はは真逆だ。

 最悪の環境から、異世界に来て釜瀬に殺されたことで未来へ改めて希望を持てた俺。

 幸福だった日常を、突如信じていた人達に裏切られて未来への希望を失ったリトライラ。

 タワマン住みの人がホームレスの人に助言を送る様に、陸上選手が下半身不随の人へ声援を送る様に。

 リトライラに何を言っても、俺の言葉に重みは無いのかもしれない。

 それでもなお、言わなければならない。


「俺は今まで、ただただ人生を浪費する様に生きていたんだ。」


 リトライラはこちらに顔を向けない。


「でも、最近とあることがきっかけで俺は死にそうになったんだ。きっと、俺が固有スキルを持っていなかったら確実に死んでいた。」


 リトライラは若干動揺した様な反応をしたが、また顔を背けてしまう。


「俺は死ぬ瞬間後悔したよ、もっと人の今までの人生努力してくればって。」


 全部本心だ。

 伝え方は上手くないし、もしかしたらありふれた言葉になっているかもしれない。

 でも、言わないといけない。


「リトライラ、お前が死にたいと、そう願うなら俺はお前を殺してやらないこともない。」


 リトライラの様な緩やかな死というのは、未来に諦めて自殺をする時よりも死んだときの後悔がでかい。

 なぜなら、自身が死に向かっているということが無自覚だからだ。

 さらに、自殺に踏み切れないリトライラや地球での俺の様な奴は、心のどこかでまだ未来を諦めきれていないのだからたちが悪い。

 俺達の様な奴の死ぬ瞬間の言葉は、決まって「~たら」や「~れば」だ。


「だが、未来を諦めきれていなかった先輩として言わせてもらう。お前はもう少し行動してみるべきだ。」


 その言葉がリトライラのなにかに触れたのか、リトライラは俺に反論し始めた。


「あなたに何が分かるっていうんだ!僕はもう疲れたんだよ、頑張ろうとすることに。」


 何故自分の考えを理解しないのか、とリトライラは叫ぶ。

 いや、理解した様な口をきくなという激情が強い。


「運命に身を任せて生きていけば、たとえ僕がそれで死んでしまっても僕は諦められる。諦めないで挑戦し続けることがいかに大変だったか、あなたに分かるはずがない!」


 そう言って、リトライラはボス部屋から出ていこうとする。


「ああ、俺には分からない。一瞬でも自分の環境に嘆いて、状況の打破を挑戦したお前の方が立派だろう。でも、」


 俺はこの世界に来て、「次元転移」を授かった。

 これを手に入れた理由は未だに分かっていないが、もし神様が存在するのならこの固有スキルをくれたのには意味があるのかもしれない、と俺は思うんだ。

 「次元転移」には、神様から俺へのエールが込められているのかもしれない。


「もし本当に神様が居るのなら、リトライラに愛想を尽かしたりはしない。もし存在するのなら、きっとお前にこう言うはずだ。」


 俺は「次元転移」を授かったことで、同じく感じた。

 そして、同時に強い勇気ももらえた。


「お前が従おうとしている運命なんて、存在しないぞ、ってな。」


 俺は「次元転移」を授かったことで、運命なんて存在してないのだと信じられた。

 ここは、未来を諦めきれなかった先輩として証明しなければならない。




《次元転移を発動します》




~あとがき~


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