第十九話 『お前かっ!』

 俺が葉山の方を見ると、やはりまだ友人と談笑中だ。

 とても、洗脳されている様には見えないのだが。

 けど、クルトがここまで焦りながら言っているんだ。

 信憑性が無い訳じゃない。


「とりあえず、葉山のところに行ってみるか。」


 俺は、若干小走りをしながら葉山の元へ駆けていく。

 佐々木原には悪いが、今はそれどころでは無くなってきたかもしれないから仕方がない。

 それに、事態に気が付いた女子数名が佐々木原の方に急いで駆けていったから問題無いだろう。


『オイラがハヤマ様の思考を読もうとしても読めなかったのさ。つまり、ハヤマ様は今何かしらの状態異常スキルによって、思考停止状態にされているのさ。』

(普通に会話している様に見えるぞ。)

『理由は分からないのさ。もしかしたら、洗脳した者が裏からハヤマ様の言動を操っているのかもしれないし、可能性は薄いけど今見えているハヤマ様が幻影という可能性もあるのさ。』


 確かに、スキルを使えば何でもありのこの世界ならば何が今起こっていても不思議じゃないよな。

 そして、何も結論は出ないまま俺は葉山の前まで着いた。

 俺は、談笑中の葉山へ強引に問いかける。

 「次元転移」があるのだから、異常事態の今は基本的に周りの目は無視していく方針だ。


「おい、葉山!」

「ん、どうしたの清原君、そんなに焦って?」


 一見今までと変わりない葉山に見える。

 まあ、思考を読むことが出来るクルトでも原因が分からなかったのだから、俺に葉山に起きている異常事態の原因を突き止めるのは難しいだろう。

 今俺に出来ることは、ただただベストを尽くすしかない。


(おいクルト、周りの奴らの思考を片っ端から読んで見てくれ。)

『分かったのさ。』


 そう言って、クルトは葉山と今話していた夏目沙耶の肩に乗った。

 どうやら、ある程度距離が近くないと相手の思考は読めないらしいな。

 その後も、数瞬誰かの肩に乗って思考を読むことをクルトは続けて行った。

 そして、五人目くらいのの時、クルトは驚いた様に俺の元へ跳んできて言った。


『彼もハヤマ様と同じように思考停止していたのさ。』

 

 クルトは、地球で俺をいじめていた奴の一人である、小紋劉生を指して言った。

 小紋の性格は、一言で表せばガキ大将だ。

 これは俺の偏見だが、若干精神年齢が幼い奴という説明を付け足してもいいだろう。

 地球では俺以外のクラスメートの大半に嫌われていた様な奴だ。

 葉山、小紋と何とも奇妙な組み合わせだな。

 性格も真逆だし。


「う~~ん。」


 俺は数秒程黙考をする。

 周りからの視線が痛いが、極力無視する。

 そして、考えた末に一つの可能性を思い付いた。


(もしかして、葉山が「情報収集」のスキルを持っているからか?)


 洗脳されているのが葉山だけでは無いのだとしたら、葉山達を洗脳している奴らの目的が俺たちに葉山達の洗脳を気付かせない為という可能性が出てくる。

 鑑定の時に居なかったから「情報収集」がどれだけの情報を集められるのかは知らないが、もし「情報収集」にみんなが洗脳されていることを見つけ出せる程の能力があったのなら、葉山が洗脳されている説明がつく。

 となると、だ。


「問題は、誰が葉山を洗脳しているか、だよな。」


《次元転移を発動します》


 俺は、みんなが職業を選択している時まで戻って来た。

 今は、俺と葉山がダンジョンからみんなのところへ戻って来てすぐなので、きっとまだ葉山は洗脳されていないはず。


「クルト、葉山へ常に「情報収集」を使用する様に言ってきてくれ。なるべく最短で未来のことを葉山に伝えてくるんだ。」

『キヨハラ様は来ないんですかなのさ?』

「俺が居たら、葉山が洗脳されないかもしれないだろ。あとクルト、お前はすぐに戻って来いよ。クルトは常に俺の肩に乗っていたから、洗脳されたら過去に戻って解除出来ないんだからな。周囲の警戒を怠るなよ。」

『愚問なのさ!』


 そう言って、クルトは葉山に向かって跳んで行った。

 葉山への説明はクルトに任せて、俺は小紋の方を観察する。

 俺がもし洗脳する側だったら、先に葉山を狙うだろう。

 ただ、クルトが葉山のところへ行ってしまった為、過去が変わって洗脳されるのが小紋一人の可能性はある。

 勿論、俺が小紋を守る義理はないが、もし今葉山達を洗脳している奴を逃せば葉山は常に危険に晒されることになってしまう。

 今葉山達を洗脳している奴を叩くのがベストだと俺は思う。

 そして、小紋を観察すること数十秒。

 小紋は、めまいを起こした様に頭を揺らした出した。


(な、何が起こったんだ!?)


 俺は小紋が何者かから攻撃を受けたと思い、あたりを見回した。

 その時、


(目が、合った!)


 この訓練場の横には、昨日俺が寝た王宮の建物がある。

 俺があたりを見回している時、不意にその建物の影からこっそりと俺を見ている男が居た。

 顔だけしか出していないが、その肌はとても痩せており、実に不健康そうなイメージを与えてくる。

 俺たちは、数秒程見つめ合った後、


「っ!」


 俺は、本能的に横に跳んでいた。

 「危機感知」のお陰か、あるいはレベルアップにより直感が働いたのか、あの一瞬では分からない。

 だが、俺が振り向いて俺が避けた先を見ると、その直線上にあった俺たちが昨日寝た建物の柱がどんどん腐っていっているところを目撃した。

 柱は今も腐食が進行しており、もう原型をとどめていない。

 あの攻撃は、完全に俺を殺す気だった。

 つまり、


「お前かっ!葉山を洗脳したのはっ!」


 俺は、奴の元へ向かって「次元転移」を怒りのままに発動させた。


「次元転移ぃっっ!!!」


《次元転移を発動します》



~あとがき~


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