第二十話 『冥皇』

 葉山達を洗脳したのが、この男とは限らない。

 この男が集団で洗脳行為を行っている可能性も十分ある。

 だが、俺の本能が正体はあの男だと叫んでいる。

 葉山にはクルトがいるし、もう問題無いだろう。

 この男の背後に転移した俺は、この男の背に向けて渾身の全力で蹴りを打ち込もうとした。

 しかし、


《次元転移を発動します》


 奴の目はしっかりと俺を捉えていた。

 佐々木原の時と同じだ。

 やはり、俺のステータスはショウワールさんと鑑定をしたときに完全にばれていると思って間違いない。

 俺は、佐々木原の時の二の舞にならない様に元居た場所に転移する。


「清原君、大丈夫!?」


 横から、葉山が走ってくる。

 そして、目の前には俺を守る様に立っているクルト。


『キヨハラ様、あいつはヤバいのさ。』


 はっきり言って、ステータス上ではクルトは俺よりも強い。

 実際にステータスを見せてもらった訳では無いが、レベルアップのせいなのか感覚で分かる。

 存在の格とでも言えばいいのだろうか。

 そのクルトがあそこまで真剣にあの男を見つめている。


「クルト、お前あいつのことを知っているのか?あいつはどれくらい強いんだ?」


 俺は焦ってクルトへ質問の嵐をぶつけてしまう。


『分からないのさ。ただ、世間では一説にレベル170を超えていると言われているのさ。』


 文字通りレベルの桁が違う。

 あの男からはそんなに「危機感知」は反応しないが、逆にそれを不気味に感じてきた。

 それに、世間で、という言葉にも引っかかる。


「世間でってことは、あいつもしかしてそこそこ名の売れた有名人だったりするのか?」

『そうなのさ。それも全世界に名を轟かす程の有名人さ。』


 全世界に名前が知れ渡ってるって、流石に言い過ぎなんじゃないか。


『いいかいキヨハラ様、この世界には三皇と呼ばれる三人の人族最強と考えられているて奴らが居るのさ。闘皇、知皇、そして、』


 そして、一旦クルトは溜めてから言い放った。


『最後にあそこにいる冥皇なのさ!』


 人族最強って、俺が勝つ見込み絶対にゼロじゃないか。

 クルトの言葉が正しいのなら、ここは逃げる一択だ。

 話し合いで解決するという手もあるが、葉山達を洗脳したり目が合っただけで攻撃してくる様な男だ。

 会話の席に座ってもらうのには命懸けになるだろう。


「おい、逃げるぞクルト!」

『はいなのさ!』


 そう言って、クルトは俺の肩に乗った。

 冥皇は、表した魔術師らしき服装とはかけ離れた脚力で俺に迫って来ている。

 そして、冥皇が高速で手元に火球を生成して俺に放とうとした瞬間、俺は「次元転移」を発動した。


《次元転移を発動します》


 俺は、四次元間を転移することでこの事態を一旦は乗り切った。

 否、乗り切った、と思った。



.......................................................


..............................


..............



「よし、ここまで来れば大丈夫だろう。」


 俺は今、四次元間を転移して葉山と共にダンジョンへ潜る直前の時間まで戻って来た。

 ちょうど、クルトが登場した時だ。


「大丈夫、清原君?」


 俺は、一気に緊張の糸が切れたことでその場で膝をついてしまった。

 葉山は、一瞬前の俺が雰囲気の全然違う今の俺が居ることに違和感を感じたんだろう。

 俺は、呼吸を整えながらクルトへ言う。


「クルト、事情を説明してやってくれ。」


 二回目になるが、クルトには葉山に説明をしてもらう。

 前回、この時間帯は魔物にあまり遭遇しなかったので、警戒は一旦緩めてもいいと思う。


「ふぅ。」


 そういえば、今日は朝から何も食べていないな。

 戦争中だから食料が減っているからか、俺ももしかしたらいずれ洗脳される予定だったから食事を抜かれたのか、そもそもこの世界は一日二食が常識だったりして。

 地球で生活していた俺からすれば、一日三食は欲しい。

 まあ、地球でも満足に三食を食べることが出来ていたとは言い難いけれども。


『という訳なのさ。』

「そ、そんなことがあったんだ。って、つまり私このままだと洗脳されちゃうってこと!?」


 俺がどうでもいいことに考えている間に、クルトは説明を終えたらしい。


「そうなんだよ。そして、多分時間を移動して今回みたいに冥皇を凌いでも、根本的な問題を解決しないとまた今回の様に洗脳の危機に晒されることになる。」

「でも、どうすればいいのかな。」


 俺がこの時間へ理由も無しに転移してきた訳じゃない。


「強くなって、あの冥皇に対抗出来る様になればいいんだ。このダンジョンでレベリングして。葉山も、俺に同行して欲しい。」


 もし本当にレベルが170もあるのなら、その場凌ぎを続けていてもいずれは葉山は洗脳されることだろう。

 さらに、もし俺までも洗脳されてしえばゲームオーバーだ。


『って、キヨハラ様あの冥皇と戦うつもりですかののさ!?む、無謀なのさ!』

「それ以外に手が無いのだから仕方ないだろ。」

『た、確かにそうだけどなのさ、う~~ん。』


 クルトが悩み出した時、


「私は問題ないよ!」


 そう、葉山は強くそう言い切った。


「そもそも、洗脳されるのは私なんだから、私自身が頑張るよ。それに、私この世界に来た時に決めたの。」


 そして、若干溜めてから葉山は言い放った。


「そ、その清原君を守るって。」


 最後の方は尻すぼみになっていたが、俺は聞き取れてしまった。

 それに、葉山が男前過ぎる。


「そ、そっか。」


 俺達の間に若干の気まずい空気が流れ出した瞬間、


ドドーーーン!!


 俺達の近くで突如何かが降って来た。

 相当な運動エネルギーを地面にぶつけたのか、一瞬周りが地震の様に振動していた。

 俺達は何事かと思い、砂埃によって隠れている落ちてきたものの方向を見る。


「全く、わしのマーキングにいきなり反応があったと思ったら、昨日召喚されたばかりの勇者達ではないか。」


 そして、落ちてきた冥皇は俺達のに向かって話しかけてきた。


「わしは、お主らに「追跡」を使用した覚えはないのじゃがのぉ。」


 そう言って、冥皇は俺達の方へ歩いてきた。



~あとがき~


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