第二十六話 『うまい、うま過ぎるぞベヒモス討伐!』


 ベヒモスの咆哮と共に、葉山はベヒモスに向けてとんでもない速度で走っていく。

 この戦いで、俺は基本奇襲に徹するつもりだ。

 チームで一つの敵と戦うにあたって、俺の「次元転移」は限りなく奇襲に特化している。


ドスン!


 戦闘が開始してから数秒も経たない内に、ベヒモスは背中から地面に倒れ伏した。

 頭部には目に見えてわかる痣がある。

 とても信じられない光景だが、葉山のとんでもパワーによって殴られた結果だ。

 まあ、もうこういう物理法則を完全無視した攻撃も見慣れてきた。


《次元転移を発動します》


 俺は倒れたベヒモスの顔の上に転移した。


「ブゥゥゥゥゴゴォォォ!」


 ベヒモスは、いきなり自身の顔の上に現れた俺を不愉快そうに見つめ、鼻息で吹き飛ばそうとしてくる。

 まあ、このくらいの突風で吹き飛ぶほどやわな鍛え方はしていない。


「グレッベヘッ!」


 俺に気が向いている隙に、葉山がベヒモスの腹に全力のグーパンを叩き込む。

 殴る度に轟音がこのボス部屋に響き渡る。

 俺は、クルトに作ってもらった長剣でベヒモスの顔面を切り刻んでいく。

 たとえグロテスクな光景に耐性がある人でも、この行為を見れば吐くこと間違いなしだろう。

 俺だって、一階層ごとにグロさの増していくこのダンジョンを進んで来なければ、今頃はベヒモスとではなく吐き気との戦いになっていたことだろう。

 ベヒモスは、最初こそ俺達に抵抗しようと暴れようとしていたが、それが無意味だと悟るとおとなしく体を丸めて防御体制に入った。

 なんか、このベヒモスが可哀そうになってきた。

 まあ、こっちだって冥皇に勝つ為に命がけなんだ。

 こっちの気持ちを察しろというのは無茶な話だが、どの世界でもは弱肉強食が不変のルールらしいからな。

 ベヒモスには申し訳ないが、俺の経験値になってもらう。

 目、鼻、口等の主要な顔面の部位を破壊し終えて、段々とベヒモスの顔の皮が無くなり、切った感触が肉から骨へと変わってきたころ、ようやく天の声が聞こえてきた。


《経験値が入りました。》

《経験値が上限に達しました、レベルが上がります。》

《経験値が入りました。》

《経験値が上限に達しました、レベルが上がります。》

《経験値が入りました。》

《経験値が上限に達しました、レベルが上がります。》

《経験値が入りました。》

《経験値が上限に達しました、レベルが上がります。》

《経験値が入りました。》

《経験値が上限に達しました、レベルが上がります。》


「って、一気にレベルアップが来たな。」


 たった一回ベヒモスを討伐しただけでレベルが五つも上がってしまった。

 うまい、うま過ぎるぞベヒモス討伐!

 さっきまで83だったレベルが、今や88だ。

 レベルが80台になったくらいから、レベルアップに必要な経験値が次第に大きくなっていてなかなか天の声を聞く機会も減っていたから、これほどのレベルアップは正直意外だ。


「なあ、葉山はレベルどのくらい上がったんだ?」


 俺は、今俺と同じ高揚感を味わっているであろう葉山に声をかける。

 しかし、葉山は驚いた様に空中を指でタップしていて、俺の声が届いていないらしい。

 俺は何が起こったのかと不審に思い、ベヒモスの腹から動かない葉山の元へと「次元転移」で飛ぶ。


《次元転移を発動します》


 俺は葉山元へ駆け寄る。


「どうしたんだよ葉山、しきりにステータスボードを確認して?」

「っとわぉ、き、清原君!?」


 この驚き様、全然俺が近づいていたことに気が付いていなかったのか。

 一体、何があったんだろうか。


「私もよくわかってはいないんだけど、なんか初回クリアボーナスで、「浄化」ってスキルをゲットしたんだ。」

「あ、あ~~あ、はいはいなるほどね。」


 確かに、このダンジョンには初回クリアボーナスがあることを完全に忘れていた。


「って、「浄化」!?」

「うん、そうだよ。ど、どうかしたの?」


 俺の驚きぶりに葉山は若干驚きながらも訪ねてきた。

 いやいや、もしそのスキルが俺の予想通りの効果を持っているのなら、それは対冥皇において非常に強力なピースになり得る。


「葉山、ちょっとその「浄化」の効果を教えてくれないか?」

「わかった。え~となになに、「他者の状態異常を治すことができる。ただし使用者自身に使用した場合は、体を清潔にする程度の効果しか出ない。」らしいよ。」

「そうか、やっぱり今俺達に必要なスキルだ。それもあり得ないくらいに。」


 このスキルがあれば、冥皇の洗脳にも対応できる。

 もし俺が洗脳された場合は葉山が「浄化」で俺の洗脳状態を解き、葉山が洗脳された場合は俺がまだ葉山が洗脳されていない時間に転移すればいい。

 それに、今頃洗脳されているであろう小紋も助けられる。

 助けたくはないがな。

 その事実に興奮して、俺はそのことを葉山に話す。


「確かに、このスキルは今の私たちに必要かも。よく考えてるね、このダンジョン。」


 決めたのはシャーロッタさんかもしれないけれど、話が脱線するだろうから今は話す必要は無いだろう。

 俺たちがそんな話をしている内に、部屋の奥の魔法陣が光り始めた。


「じゃあ、そろそろ部屋の外に戻るか。」

「う、うん。」


《次元転移を発動します》


 俺たちは頷き合って、一旦この部屋から出た。


「い、言えない、私が体臭を気にしてたから「浄化」が手に入ったなんて。」


 転移する瞬間、葉山がボソッと言ったその言葉を聞き取れないままに。



~あとがき~


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