第四十五話 『世界へ』
「もう、なんでこんなことをするんですか。」
「いやなに、君が精神的に不安定だったから普通に僕が話しかけても耳を傾けてくれないだろうな、って思ってさ。」
確かに、あのままだと私はナギサを失ったショックでルチアーノさんの話を聞こうとすることは無かっただろう。
それでも、なにもいきなり攻撃を仕掛けてこなくても良いじゃない。
「というか、まだ日中だったんですね。」
「まあね。ハイバレートが居ない間に、君と話しておきたいことがあったんだ。」
「なんですか?」
正直、今は何に対してもやる気が起きない。
ハイバレード様が居ないってのも気にはなるけど、もうナギサがこの世に存在しないのであればわざわざあの人に付き従うメリットは無い。
私、これから何の為に生きれば良いんだろう?
「ナギサ君が死んじゃったことで、クヨクヨクヨクヨしているであろうツカサちゃんに朗報だ。」
「なんですか?」
「もし俺が、ナギサ君を生き返らせる方法を知ってる、って言ったら信じる?」
私は驚いて、ルチアーノさんに詰め寄る。
「今の私にふざけたことを言わないで下さい!」
「まあ、そんな反応になるわな。」
この人のひょうひょうとしたこの態度が気に食わない。
唯一の家族を殺されて悲しんでいる人間に、そんな荒唐無稽な希望を語るのか。
そんなの、そんなの............縋ってしまうじゃないか。
「一応、話してみて下さい。」
この場でルチアーノさんの言葉の現実味の無さを語っても意味は無い。
「おっ、聞く気になったか。」
「三十秒以内に私が納得する説明をして下さい。」
私は地面を変形させて、より近くまでルチアーノさんに詰め寄る。
「オーケーオーケー、簡単に説明させていただきます。まず前提として、この世界の住人は誰しも魂を持っているだろう。」
「そうですね。」
魔素とはそもそも、人間に限らず魔物や動物の魂に集まるという性質がある。
そして、集まった魔素は魂に付着するオドという部分に吸収され、ステータスへと魔力を転換するのだ。
私が「変形」を使えているのも、魂があるお陰だ。
「もし誰かが死ねば、魂は肉体から離れてしまう。」
「そんなこと知ってますよ。何が言いたいんですか!」
「言ったろう、魂は肉体から離れてしまうと。」
「だからそんなこと、少しくらい魔法をかじっている人なら誰だって知ってますって。」
「つまり、その死んだ人の魂は肉体を離れるだけなんだ。決して、消滅なんかしていない。」
確かに、冥皇様にはその人が死ぬと魂も共に無くなると教わった。
でも、その情報に何の意味があるのか。
魂が肉体に離れたのなら、
「あれ、じゃあ肉体から離れた魂は一体どこに行くの?」
「そう、そこが問題だ。精神と肉体は二つで一つ。宿るべき肉体を失った魂は何処へ行ってしまうのか。」
そんなこと、考えたことが無かった。
そもそも、魂にだってそこまで深く考えたことが無かったのだから。
「正解は、あの世だ。」
「あの世?」
聞きなれない単語に、私は首を傾ける。
「あの世と言うのは、肉体を失った魂が向かう先だ。そこでは、魂にくっついているオドや余分な魔素を綺麗に除去し、魂をまた何もない状態、つまり新品にするって作業が日夜行われているんだ。」
「へぇ~~、そうなんだ。」
私は普通に驚いてしまった。
この情報は、今に世間に出回っていない。
この話を魔法院あたりにすれば、ほぼ確実に隠蔽されるであろう内容だ。
最も、この話が本当であった場合に限るけれど。
「つまりだよ、まだ死んでから半日も経ってないナギサ君は確実に今あの世に居る。」
「えっ、本当!?」
「本当さ。少なくとも、二か月、長ければ三か月くらいはあの世にナギサ君の魂は留まっていると思うよ。」
なんてこと。
なんて荒唐無稽な希望なんだろう。
縋るべきでではない。
縋ってしまえば、希望が無くなった時の絶望がきっと待ち受けているから。
でも、私の口は止まらない。
「どうすればあの世に行けるの? 私が今、死ねば良いの?」
「いやいや、魂だけの状態になれば君の意思はなくなってしまう。ただ生存するための機械になってしまうだけだぜ。」
「じゃあ、どうすれば。」
私が俯いたその時、
「魔族領のとある小島に、あの世とこの世を行き来出来るゲートがあるんだ。そこから、肉体を持った状態であの世に行く。」
「そ、そんなことが。」
信じられない、そう言おうと思った。
でも、私の口から発されることは無かった。
もう、この希望に縋るしか道は無い。
ナギサは私の全てだ。
奥行きの見えないトンネルを歩こうとしている私に、ナギサ救える可能性が一つでもあるのなら、私は喜んで愚者にでもなんでもなろうじゃない。
「俺も今、どうしてもこの国から逃げないと行けなくなってね。あの世に居る、とある少年に会いに行くつもりなんだ。」
ルチアーノさんもなのか。
「長旅になるけど、付いて来てくれるかい?」
ルチアーノさんが、手を差し伸べながら
「ええ、もちろん。」
私は力強く、彼の手を握り返した。
~あとがき~
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