第四話 『管理者シャーロッタ・ミリエル』

 魔方陣から現れた女性は周りを見回してから、俺と目が合った。

 そして、俺のことをジーと無言で見てきた。

 なんか気持ち悪い。

 そして、俺を見つめること数秒。一瞬物凄く驚いた表情をしていたが気にしない。

 だが、この状況は俺的にかなり気まずい。

 あっちでも女性との交際なんてない。つまり、美少女耐性とかいうやつはゼロと言っても過言ではない。

 よって、俺は覚悟を決めて話しかけることにした。


「あ、あの、何しに来たんだ?」


 コミュ障である俺は、前置きなど言わずにいきなり本題に入ってしまう。

 今まで、ジーっと俺を見ていた彼女は、話しかけられたことで我に返ったかのようにハッとして、俺に話しかけてきた。

 何となく感じた気持ち悪さは、もうなくなった。


「こんにちは。私はこのダンジョンの管理者をしている、シャーロッタ・ミリエルと申します。」


 そう言うと、彼女は自然に美しい笑みを浮かべながらそう挨拶してきた。


「どうやら、このダンジョンでバグが見つかったらしいので、確かめに来たのです。あなたはキヨハラショウスケ様でよろしいでしょうか?」

「ま、まあ。」


 そう言うと、彼女は俺に詰め寄ってきて、


「では、どうやって二回もダンジョンを初回クリア出来たのでしょうか。教えていただけませんか?」


 いいえ、と言わせないような迫力が、ミリエルさんの目にはあった。

 勿論、断る気なんてない。俺にも、システムを利用してズルをしていたという自覚はあるのだ。


「俺の持つ「次元転移」というスキルで、ダンジョンクリア前まで飛んだんだよ。」

「やっぱりそうですか。」


 やっぱり?

 その言葉は、まるでミリエルさんは俺が「次元転移」を使ったことを知っていたみたいじゃないか。


「まあ、この世界線では初回クリアボーナスをもらっていないようですので、一応スキルは差し上げます。」

「え、マジで!」


 そう言うと、俺の中に天の声が流れてきた。


《スキル「反射」を手に入れました。》


 ステータスボードを確認すると、しっかり「反射」のスキルが書かれていた。


「ですが、それも今回限りにして下さい。このようなズルをあなたに何回もさせていしまえば、他の管理者に示しがつきません。」

「わ、わかった。」


 もう初回クリアボーナスをもらえないのは痛いが、普通は二回もらうことすら無理だったのだから、収支はプラスだ。

 ポジティブに行こう、ポジティブに。

 だけど、経験値が稼げないのは痛いな。

 ボスを周回することは誰にだって出来るけど、過去に戻りながら周回することで短時間で何回もレベル上げが出来るのが、「次元転移」の長所なのに。

 そんなことを考えていると、ミリエルさんがう~んと考え事をしだした。

 うっ、またなんとも言えない気持ち悪さが襲ってきた。


「あの、何か?」

「いえ、あなたが経験値が稼げなくなるのは痛いな、みたいなことを考えていたので何か対策が出来ないかな、と。」

「ほぇっ、」


 え、この人俺の思考が読めるの?

 当たり前のようにそんなことを言うミリエルさんに、俺はどうしても驚いてしまう。

  というか、ミリエルさんが考え出した時にさっきみたいに、何となく気持ちが悪くなったが、もしかしてあれは俺の思考が読まれていることの副作用的なものか?

 まあ、それなら俺が「次元転移」を使ったことを知られていたのも納得出来るのだけれども。


「よし、ではこうしましょう。」


 思いついたとばかりに声を上げ、ミリエルさんはこのダンジョンの床に手をついた。

 そして、その手からいきなり膨大な量の魔力がこのダンジョンに流れるのを感じた。


「今から、このダンジョンの階層を五十階層まで広げます。」

「そ、そんなことが出来るのか。」

「普通は無理です。ですが、このダンジョンは私が管理者になった頃に作った練習用ダンジョンなので、今まで放置してきたここに溜まった負の感情を集めれば可能です。」


 なんか重要そうなことをサラッと言ってのけるミリエルさん。

 いや、俺にダンジョンの仕組みとか説明されても困るだけなんだけど。

 そんなことを思っていると、いきなりこの部屋全体が振動し出した。

 いや違う。この部屋だけじゃない。


「このダンジョン自体が揺れているのか!」


 そして、数十秒くらい揺れた後、突然ミリエルさんが飛んできた魔方陣の奥に扉が出来た。

 説明を求めようと俺がミリエルさんの方を向くと、彼女は何故か半透明状態になっていた。


「ど、どうしたんだ!」


 なんかさっきから驚いてばっかだ。

 流石にもうお腹一杯だぞ。


「問題ありません。ただ、私には下界に存在できる時間に制限があるのです。」


 もう下界とかいきなり言われても驚かない。


「なので、もうそろそろ私はいなくなります。なので、この子と契約してあなたが同じようなことをしないか見張らせてください。」


 すると、ミリエルさんの手から拳くらいの大きさの羽の生えた小人がこちらに飛んできた。


「この子は?」

「私の従者の一人です。基本この下界を主に行動させているので、いなくなることはありません。また、私と距離が離れていても会話出来るので、あなたが転移を発動したら逐一報告させます。」


 そう言うと、ミリエルさんはもうほとんど見えなくなっていた体を本当に消えてしまった。


「いや、俺の拒否権は?」


 俺は茫然として、そんなことしか言えないのだった。



~あとがき~


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