第二十二話 『一転した人生』
騎士の人達に自由時間を言い渡された為、僕は何となく昨日自分が寝ていた部屋に歩いていた。
この世界に召喚されたばかりだから、暇潰しに行く当てなんてない。
僕は、久々に何も考えずにただただ歩いていた。
考えるべきことが多すぎたからか、
その時、
「おっ?」
近くに、地球でのクラスメートである清原と葉山さんが歩いているところを見付けた。
珍しく二人が歩いている、という訳じゃ無い。
地球でもよく葉山さんは清原に話しかけていた。
葉山さんの清原への好意は、俺達のクラスでは周知の事実だった。
清原は居なかったが、鑑定の時に葉山さんの固有スキルがみんなに晒された時は、そのことをめっちゃいじられてたもんな。
「尾行してみるか。」
勿論、僕が今ストーカー行為をしようとしていることは分かる。
だが、このストーカーは地球に居た時からの僕の趣味だ。
まあ、ストーカーが趣味というよりも人間観察が趣味と言った方が正確だけどね。
他人の一挙一動を観察し、その人の行動原理を考察することは、人間という種族、そして自分自身を見つめ直して理解できていってる気がしてくる。
だから、こんなスキルをゲットしてしまったんだろう。
「観察眼」
他者の性格、ステータス、記憶等の情報を文字に起こして読むことが出来る。
一回で観察できる対象は一人。
ステータスを読み取る際に、対象の隠しパラメータも閲覧できる。
尚、記憶を読み取る際は記憶が古くなればなるほど不鮮明になる。
また、目の視力、動体視力等を大量の魔力を消費することで上げることが出来る。
まさに、僕にピッタリのスキルだ。
当然僕は、二人にこっそりこのスキルを使用する。
《観察眼を発動します》
「おおっ、」
まずは頭の中に、清原身体情報、ステータス、ステータスの隠しパラメータが目の前のステータスボードに表示される。
これだけでも十分凄いが、次に清原の性格や大まかな行動原理が流れてくる。
「へぇ、幸せになりたい、か。ありきたりな目標だけど、この清原の幸福に対する哲学はなかなか面白いね。」
そして、最後に清原の記憶が流れてくる。
流れてくる記憶の量が多すぎると内容がかなり不鮮明なものになってしまうので、流れてくる記憶はこの世界に来てから感じたこと絞ってある。
まだ一日しか経っていないが、人というのは一日で自分が想像するよりも遥かに多くの出来事を経験しているものだ。
僕は、流れてきた清原の記憶を読む。
「清原祥佑の軌跡」
6/15 突如異世界に召喚されてしまう。
この世界はとても漫画やラノベの世界の様だと思い、試しにステータスと唱えてみると本当にステータスボードの様な半透明の板が出て来て驚いた。
また、ステータスをチェックして、自分に「次元転移」なる固有スキルがあることを知る。
クラスメートたちは召喚された後、ショウワールという男に案内されて自身らのステータスを鑑定されに行ったが、自分は列の最後尾だった為仕方なくダンジョンに潜ろうとする。
その時、地球で清原をいじめていた釜瀬に話しかけらえる。
~~~~~~~~~~
そして今、葉山と共にダンジョンに潜ろうとしている。
「面白い。というか、確かに釜瀬は見当たらないなとは思っていたけれど、まさか清原に殺されていたとはね。」
僕は、お気に入りの小説を途中まで読んで興奮している時と同じ気持ちだ。
特に、釜瀬に殺されかけた時の清原の後悔と決意に僕は感動したよ。
「一応、今の清原のステータスを確認しておくか。」
そう思い、僕はステータスボードをスクロールした時、突然ステータスボード上に書いてあった清原の記憶やステータスの情報が消えた。
「なっ!」
僕はたった今起きたことに対して理解が出来ずに、清原の方を見た。
するとそこには、さっきまでと変わらずに立っている清原と葉山さんの姿があった。
「何が起こったんだ、一体!?」
別に、僕もこの世界に来てからまだ一日足らずな為、スキルやステータスについての理解はあまり深くない。
しかし、そんなこの世界の仕組みについてほとんど知らない僕でも分かる。
今僕は異常事態に直面しているのだと。
《観察眼を発動します》
「観察眼」を使えば、今起きている異常事態への何らかの手掛かりは手に入るかもしれない。
僕は、清原から流れてくる記憶を猛スピードで読み進めていく。
そして、違和感に気が付いた。
「清原祥佑の軌跡」
6/15 突如異世界に召喚されてしまう。
~~~~~~~~~~
葉山と共にダンジョンに潜ろうとした。
その時、清原の目の前にクルトというシャーロッタさんの従者の妖精が突然現れた。
クルトは、新しくなったミリエーラダンジョンを清原へ紹介すると言い出した。
清原は、仕方なく案内役のクルトを連れて葉山とダンジョンへ潜った。
しかし、ダンジョンの変容ぶりは清原の想像を遥かに超えていた。
~~~~~~~~~~
清原は「次元転移」で四次元間を転移し、やっとの思いで冥皇から逃げ切ったのだった。
「っな、」
想像通り想定外な内容だった。
ただ、ここまで自分の予想外だとは思いもしなかったが。
「つまり、あそこにいる清原は未来の清原だとでもいうのか!?」
「鑑定眼」は嘘を付かない。
自分のあり得ないという思いよりも、スキルという絶対的なものが表した結果の方が信憑性がある、と頭の中は理解できる。
だが、思考と感情は必ずしも同じわけじゃないんだ。
それに、僕の最大の懸念点は内容の濃さだけじゃない。
というか、こっちが本命だ。
「多分だけど、清原の記憶の中の僕って冥皇に洗脳されてるよな、絶対。」
確信があるんだ。
だって僕は、「ボーっとしてていいのかっ!」とか、「読めていたよ、清原!」なんていかにも漫画のキャラクターが叫んでそうな痛いセリフは言わない。
僕の名誉の為にもう一度言う、絶対にあんなこと言わない。
「じゃあ、僕は僕で冥皇への対策を考えないとな。」
清原達と手を組むのがベストだろう。
何せ、どれだけ追い詰められても「次元転移」で逃げられるし、清原が隣にいるののなら葉山さんは最強だろうし。
僕一人じゃ、清原の記憶で読んだ冥皇か「全く、わしのマーキングにいきなり反応があったと思ったら、昨日召喚されたばかりの勇者達ではないか。」らは戦う以前に、逃げることすら到底無理だと思うし。
よし、ここはひとまず清原達と共闘といこう。
「清はっ、」
ドドドドドーーーーン!
僕が清原達へ声をかけようとした時、空から突然何かが落ちてきた。
「ゲホッ、ゲホッ」
隕石、いやあれが落下しているときに微かに見えたが、あれは多分人間だ。
「全く、わしのマーキングにいきなり反応があったと思ったら、昨日召喚されたばかりの勇者達ではないか。」
落下の衝撃による砂煙をかき分けて現れたのは、魔術師の様な服装をした一人の老人だった。
(あいつが冥皇だっ!)
僕は、「観察眼」等使わずとも本能で理解できた。
あの男と僕との間には、エベレストすら米粒の様に見えてくる程の圧倒的な実力差がある。
そう理解した。
(勝てない。)
幸い僕は冥皇の背中側に立っていたので、物音を立てないよう最大限気を付けて逃げた。
(どうしたらいいんだっ、クソッ)
声には出せないから、心の中で悪態をつく。
(冥皇と対峙していたから、清原はきっと死ぬだろう。もう共闘なんて言ってられない。どうする?同じように洗脳される小紋と手を組むか、騎士団長は信用できるのか?一旦王宮にいるショウワールさんに相談するか?)
内心諦めながらも、僕は脳みそをフル回転させてどうにか生き残る方法を考え続けるのだった。
~あとがき~
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と思ったら、
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何卒よろしくお願い申し上げます。
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