第十二話 『希望が見えるかもしれない』
「じゃあ、そろそろ今年の管理者集会を始めようか。」
何者も存在しないこの空間では、当然シュレイオンの声に反応するものは何も無い。
奥を見ようとしても奥行きは見えず、私が立っている地面を確認しようとしてもこの空間では上下という概念を忘れてしまう。
何故私がシュレイオンの体をこの空間で視認出来ているのかは分からない。
「まずは、サウザンリーフ地方の現状についてベアバレー君から聞こうか。」
シュレイオンがそう言うと、突然この空間に男性の重々しい声が響いた。
「特に昨年と変わりは無い。強いて言うのなら、今年は例年に比べて作物が豊作だったくらいだな。」
声の発生源は分からない。
感情の起伏を感じられなかったその声は、言うべきことは言い終えたとばかりにまた口を閉ざした。
最も、その声の主の口が見えている訳では無く単にそんな雰囲気を直感で感じ取っただけだけれど。
「そうかいそうかい、問題無いのなら良かったよ。そんなら次は、ラジフィルデさん、ケープボール地方の報告お願い。」
そんな感じで、シュレイオンによってもう何回目かすら数えるのが面倒になる程行ってきた、管理者集会が進んでいった。
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着々と管理者集会だ進行していく中で、シャーロッタ・ミリエルは考えていた。
(異世界から召喚されたキヨハラショウスケ様のことを、彼らに話すべきでしょうか?)
何千年も生きてきたミリエルでも、「次元転移」の様なバカげた力を見たことも聞いたことも無かった。
なにせ、「次元転移」というスキルの汎用性は計り知れない。
空間、時間、世界間、全てを自由に行き来できるのだ。
未来を見てから過去に転移をしていけば、世界征服なんて朝飯前に出来るだろう。
さらに、よくよく考えれば私たち管理者でも未だ不可能な死者蘇生すらも可能ときた。
(やっぱり、本当にあの時会うことが出来ていてよかったわ。)
ダンジョンでバグが発生したと聞いた時、もし普段のミリエルならば手持無沙汰だったクルトにでも対応を任せて、バグを起こした清原など気にも止めはしなかっただろう。
だが、ミリエルはあの時検出されたバグの内容に首を捻った。
《初回クリアボーナスの二重所持》
普通のダンジョンに初回クリアボーナスなんてものは無い。
そもそも、この世界におけるダンジョンの価値とは、モンスターを効率的に狩れることによる経験値、高い魔素濃度によって発生する魔鉱石等だ。
しかし、あのダンジョンの場合は目の前にヴィルフェンス王国の王都があるため、その有用性よりも危険が上回る。
もしそのダンジョンでスタンピードでも起これば、あの国が受ける被害は甚大なものになるだろう。
そのため、管理者たちは皆基本そういう人口が多かったり経済力の高い街には初回クリアボーナスというおまけを付けることで、ダンジョンを滅ぼされることを防いでいるのだ。
何時でもそのダンジョンの難易度を一気に上げてスタンピードを起こし、その国を滅ぼせる様に。
(まあ、あのダンジョンの急激な難易度アップを気付かれるリスクもあるけれど、それに見合った対価は手に入るのだもの、収支プラスよね。)
清原もとい「次元転移」というスキルは、ミリエルや他の管理者たちにとってはとてつもない脅威だ。
「では最後にシャーロットさん、君の担当のヴィルフェンス地方では異界から勇者が召喚されたらしいじゃないか。その勇者や召喚したヴィルフェンス王国の内情とかも詳しく報告お願いね。」
だが、もしもそれ程の脅威がこっちの味方になるとしたら、
「はい。」
もしも「次元転移」を自分が独占出来るとしたら、
「まず、ヴィルフェンス王国の上層部では、勇者たちを洗脳して操ることを決定いたしました。そして・・・」
ミリエルの長年望んできたあの計画も、
「次に、召喚された勇者たちについてですが・・・」
行き詰まっているこの世界にいずれ降りかかるであろう災厄への対策にも、
「以上の四十一名が召喚されました。ステータスやある程度の勇者たちの性格等は後で送ります。」
もしかしたら、希望が見えるかもしれない。
「それで、君は彼らの中に使えそう、もしくは僕らの脅威になりそうな奴は居たりするのかい?」
だがミリエルは、自身のあの計画の為にもここで清原のことを話す訳にはいかない。
だから、
「いえ、そこまでめぼしいスキルの持ち主は見当たりませんでした。」
「そうかい。」
ミリエルは清原のことをこの場では隠し通した。
隠し通した。
こうして、今年の管理者集会は幕を閉じた。
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ミリエルの報告した清原のステータス
ステータス
Lv.25
名前 キヨハラ ショウスケ
年齢 17歳
職業 未設定
HP 980/980
MP 1320/1510
SP 950/1100
固有スキル
・転移
・略奪
スキル
・偽装
・危機感知
・加速
・経験値増加
・反射
~あとがき~
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