第三十七話 『まるで漫画の世界』
普通に考えて、俺達がダンジョンから出てきた瞬間にこいつ等は飛んできた訳だから、冥皇に指示されて飛んできたと考えるのが妥当だろう。
それに、「追跡」がうんたらかんたら言ってたしな。
目の前の二人は敵、そういう前提で動くべきだ。
クルトを通してこの考えを二人に伝える。
「まあ、冥皇様が殺してこいって言ってたんだし、サクッと片付けて冥皇様のところに戻ろうか。サクッとね。」
「そうだね。片頭痛がしてきたし、さっさとこの仕事終わらせよ。」
そう言って、二人は人間が出せる速度を軽々と超越した速度で俺達に迫って来た。
「っっと、」
俺は何とか横に跳んで二人から距離を取る。
葉山とリトライラも俺と同じように敵二人から距離を取った。
(いや、おかしいだろ。)
俺がダンジョンに潜る前に冥皇と戦った時も、確かに冥皇はとんでもない身体能力を備えていた。
そして、それは俺と冥皇のステータスの差で説明がついたはずだ。
だが、今の俺のレベルは325。
速度が上回れているとまでは思わないが、それでも俺に近いくらいの速度を今の二人は出していた。
『これが、魔力をスキルを介さずに使った戦い方なのさ。』
「どういうことだ?」
『彼らは今、全身に魔力を巡らせることで自身の身体能力の底上げをしている状態なのさ。ササキバラさんも、彼ら程じゃないにしろ身体強化なら使えるのさ。』
地球ではお馴染みの魔法である身体強化。
まさかこの世界にもあったのか。
というか、何気に佐々木原も使えたのか。
「まあ、身体能力を上げるだけならそこまで問題は無い!」
この世界にはスキルという超便利なものが存在するのだから。
あの程度の身体能力アップなら、さして気にしなくてもいいだろう。
「おっとおっとおっとおっと~。」
「俺達がスキルを使えないなんていつ言ったんだ?」
そう言うと、目の前の二人は突如浮かび出した。
「はぁ!?」
目の前に起きている摩訶不思議過ぎる現象に、俺はほとんど言葉を発せなかった。
出てきたのはほんの少しの掠れた声だけだ。
「私達は冥皇様の一番で市なんだよ!」
「固有スキルの一つや二つくらい持ってるに決まってんじゃんか!」
マジですか。
固有スキルの一つや二つって、こいつ等どんだけ規格外なんだよ。
「兄さん、彼らのスキルが分かったよ!」
「本当か!?」
「ああ、まず右の男性の固有スキルは「浮遊」、左の女性のは「変形」だよ!」
名前だけでも、何となく能力は分かる。
「浮遊」は文字通りものを浮遊させられる能力、「変形」はものを自由自在に変形させられる能力だろう。
効果範囲はどの程度なのか、有機物は対象なのかとかは気になるな。
「おっとおっとおっとおっとぉ~~、何暴露してくれてんだよ。」
「まあ、能力がばれたって問題ないでしょうナギサ。」
「そうだよな。どの道あんたらを潰すことには変わりないんだしな。」
そう言うと、ナギサと呼ばれた男は俺達に手のひらを向けてから叫んだ。
「ぶっ飛び落ちろ!」
その瞬間、俺達は急に宙に浮いた。
「え、え、どうなってるの!?」
「俺達にも「浮遊」を使えるのか!」
いや違う。
この感覚は、俺というよりも俺の衣類が引っ張られているという感じだ。
そして、地上から二、三十メートルくらい持ち上げられてから気が付いた。
「というかこれ、もしかしなくても、」
俺がそう言ったと同時に、俺達は物凄い速度で地上に落下して行った。
「おおおおぉぉぉー-、じ、「次元転移」っ!」
《次元転移を発動します》
いつもと変わらない口調で、天の声がスキルの発動を伝える。
葉山とリトライラは地上に転移させた。
ちなみに、落下のエネルギーは完全に殺し切れてはいないから体を反転させて転移させた。
こうすれば、さっきまで地上に向かって落下していた肉体は、転移した後は上空に向かってその落下エネルギーのまま飛んで行くことになる。
つまり、二人の着地が可能な速度で落下を再開することになる。
そして、俺はというと、
「ぐへぼっっっと!!」
俺は足をナギサの方に向けて転移をしたことで、落下エネルギーをそのままナギサの鳩尾にぶつけた。
するとナギサは、面白い様にこの町の外まで飛んで行った。
漫画みたいな光景だ。
「な、ナギサぁぁー-!」
「リトライラ、葉山、俺はあのナギサって男をぶっ飛ばしてくるから、二人はそいつをお願い。」
「任せて、清原君!」
「了解兄さん!」
俺は「次元転移」を連続で駆使して、ナギサが飛んで行った方向へと飛んで行ったのだった。
~あとがき~
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