第三十八話 『二心同体』

《次元転移を発動します》


「よっと、ここら辺かな?」


 俺は、ナギサが墜落したっぽい場所に転移した。

 周りにはまだ墜落の衝撃によって出来た小さなクレーターがある。

 つまり、このクレーターの中で一番深いところにナギサが居るはずだが。


「痛てて、全く何てことしてくれたんだ。ツカサ姉ちゃんからもらった服が傷だらけになっちゃったじゃないか。」


 ナギサは服の汚れをパンッ、パンッと叩いて落としながら、歩いてきた。


「なんだ、探すまでもなかったな。」

「それは俺のセリフだよ。」


 そう言って、ナギサはまた空中に浮かび出した。


「僕のスキルの対象は、視界に移るもの全てだ。つまり、こんなことも出来る。」

「っわ、と。」


 俺は「危機感知」の警鐘に従い、突然後ろから飛んできた数十もの小石を避ける。


「って、マジかよ。」


 俺の目の前、というか全方位には、今にも飛んできそうな大量の小石が浮かんでいる。

 これが飛んで来たらヤバい。


《次元転移を発動します》


 俺は「次元転移」でナギサの後ろに転移し、背後から首筋に短刀を押し込もうとした。

 しかし、


「あんたの行動は浅はか過ぎるぞ、二度も俺が同じ手を食らうと思ったのか!」


 気付いた時には、俺の腹には直径五センチ程の穴が開いていた。

 その穴を覗けば、ちょうどヴィルフェンス王国の街並みが見える。


「グハッ、こ、この傷はヤバいな。」


 俺は咄嗟に「次元転移」を発動しようした。

 しかし、


「痛っ、」

「これで、あんたは俺から逃げられなくなったな。」

「な、何を。」


 俺は、ナギサの方を振り向く。

 すると、何故か俺とナギサが握手をしていた。

 いや、これは握手じゃない。

 俺の右手とナギサの左手がくっついてる。


「な、なんだこれはぁぁー--!!?」


 俺の右手にナギサの左手がめり込んでいるという事実に、俺は一瞬何も考えられなくなる。


「簡単なことだ。僕の左手とあんたの右手の皮を剥いで、くっつけた状態で魔力を流して細胞の自己再生能力を活性化させたんだよ。」


 つまり、傷を負った俺たちの手をくっつけて治療したから、治療が不完全な形で行われたってことか。

 今の状況はとにかくヤバい。

 早く「次元転移」で距離を取らないと。


「あっ、」

「気が付いたようだね。そうだよ、今俺とあんたは二心同体な状況だ。あんたが例えこの星の裏側に転移したって、俺は一緒について行けるぞ!」


 これも、「次元転移」の欠点か。

 「次元転移」は、視界に収まっているものなら自由自在に転移させられるが、転移させるものと転移させないものの境界がしっかりと区別されていなければ発動出来ない。

 発動出来たとしても、俺が境界をしっかり認識できていなければどこまでが一緒に転移するのかは分からない。

 きっと俺が今リトライラたちのところへ転移しても、ナギサは俺の体の一部としてついてくるだろう。


「仕方ない、切るか。」


 俺は、自分の右手を切断して一旦距離を取った。


《次元転移を発動します》


 右手からは大量の血が溢れ出している。

 見ているだけでも痛い。

 そして、当然俺が感じている痛みはそれどころではない。


「うぅぅぐぐがががぁぁぁぁああああー--!!」


 声を出して必死に痛みから逃れようとしても、全然効果を実感出来ない。

 戦闘中だというのに、今は相手を警戒している余裕は無い。

 だが不幸中の幸いと言うべきか、ナギサはナギサで激痛に悶えている。

 当然だ。

 二心同体の状態だったのだから、その時に受けた痛みはナギサだって受けているはずだ。

 さらに、俺は今右手を無くしてしまったが、ナギサは逆に左手と俺の右手が完全にくっついていて、左手を開いたり閉じたり出来ない状態になっている。

 まあ、痛み分けか。

 冥皇戦前からこんな負傷を負うのは本当にきついが、きっとあのままナギサと二心同体の状態で殴り合っていたら俺の負けだっただろう。

 なにせ、俺は武術なんてからっきしだからな。

 痛みはだある。

 でも、何となく麻痺してきた。


「行くぞ、ナギサ!」

「ああ、こいよキヨハラァァ!」


 ナギサって俺の名前知ってたんだな、みたいなことを考えるのは後回しだ。

 今は、どうやってナギサを攻略するかだ。


「まあ、もう攻略法は思い付いたんだけどな。」

「それはこっちのセリフだよ!」


 俺は、ポケットの中にある野球ボールくらいの玉を握りしめる。

 そして、その中に入っているとある固有スキルを使用した。


「いいか、あんたの「次元転移」のもう一つの欠点を教えt.....は?」


 猛スピードで俺のところまで飛んで来ようとしていたナギサだが、突然あたりが暗くなったことを不信に思ったのか、咄嗟に上空を振り向いた。


「こ、これは!?」


 ナギサは何が起こっているのかが分からないといった風に挙動不審に周りを見だした。

 まあ、俺だってナギサの立場だったらあんな風になっていただろう。

 だって、突然空に土の壁が現れたのだから。



~あとがき~

「次元転移」で過去に戻ったら、その戻った時に自分が居た地点に転移することになります。

例えば、家から三十分かけて野球場に行ったとします。

もしその野球場で三十分前に転移したのなら、転移先は野球場ではなく家だということです。

「に、兄さん」の時に清原が一回しか「次元転移」をしていないのに清原が二人居たのは、五次元間を転移した清原が本来転移先の世界線に居た清原と違う行動を取った為、四次元間を転移して未来から来た清原は五次元間を転移してきた清原と転移先の座標が被らなかったんですね。


あと、今回ナギサを転移させた時に天の声は流れなかったのは、清原が転移した訳じゃないからです。


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