第三十一話 『誰か勇気を......』

「ねえ、最後に聞かせてよ兄さん。」


 さっき兄さんは、運命なんて存在ないと言ってくれた。

 なんでそんなことがきっぱりと言えるのか、僕には見当がつかない。


「お、なんだ?」

「なんで兄さんは運命が存在しないと、そう言い切れるの?」


 「次元転移」の凄まじさは十分理解した。

 その上で聞きたい、何処にそんな証拠があるのかと。


「俺の「次元転移」はさ、俺がもし何かをしなかった世界、してきた世界とかを自由に行き来できる訳じゃんか。」

「そうだね。」

「俺はまだ五次元間しか転移することが出来ない。だが、俺が数時間前に職業を選択した時に「次元転移」の次のステージを知ったんだ。

「次のステージだって?」


 はっきり言って、「次元転移」はこの世界に存在する数多の固有スキルの中でも群を抜いて高性能なスキルだ。

 あの家でスキルや職業に関する知識をけっこう教育された。

 それに、僕は父さんや自分の固有スキルと能力を比較することができる。

 だからこそ断言できる、「次元転移」は規格外なのだ、と。


「もし六次元間を転移できる様になれば、この宇宙が誕生した時、所謂ビックバン以降に誕生した全てのパラレルワールドに転移出来るらしいんだよ。」

「な、なんだって!?」


 そんなことが出来るのなら、正真正銘最強じゃないか。

 だって、例え打倒が不可能に近い敵と対峙した時も、その敵に勝った世界線に飛べるということなのだから。

 他にも、時が戦時中ならば自国が世界征服をした世界線にだって飛べるし、時に突破が不可能な状況だってその状況が起こった原因が無い世界線にも飛べるし、それに、


「あっ、」

「お、気付いたかリトライラ。そうだよ、もし俺が六次元間を転移出来ていたのなら、お前が追放されなかった世界線にだって飛ぶことができただろう。」


 なるほど、話の筋もしっかり通っているし、あり得ない話じゃない。


「運命がもし存在するのなら、六次元、いや五次元間を転移するだけで矛盾するだろ。」


 そうだね。

 確かにそうだよ。


「あはははっ」

「どうしたんだ、リトライラ?」


 あまりに滑稽だよ、自分が。

 兄さんのスキルが証明してくれているじゃないか、運命なんてないのだと、未来を決められるのは神様じゃなくて僕だけなのだと。


「いや、運命に従うとかなんとか言ってた自分を思い出しちゃってさ。笑わずにはいられなかったんだ。」


 神様が存在するのなら、謝らないといけないな。

 だって、勝手に僕の人生を決める様な横暴をするっているレッテルを勝手に貼ってしまっていたんだから。

 スキルは時に、能力だけじゃなくて、その存在の絶対性に救われるんだ。

 例えば、今の僕の様に。

 そう思った。



.......................................................


..............................


..............



「はぁ、はぁ、ここまで来れば、ひとまずは安心だろう。」


 僕は、冥皇が突然降って来たあのダンジョン前から全速力で逃げていた。

 だが、逃げてどうなるというんだ?

 たとえこのまま王宮から逃げ出しても、どうせ何らかのスキルで捕まるのが落ちだろう。

 だが、王宮でただ生活していてはいずれ洗脳されてしまうのが落ちだ。

 もし洗脳されれば、きっと自分の意思を持てずに奴隷の様に魔族と戦わされ、いずれは捨てられる、もしくは何らかの実験体にさせられるのが関の山だ。


「戦うしか、ないのか。」


 もしヴィルフェンス王国が僕と協力してくれたなら、もしかしたら冥皇ともいい感じの勝負になるのではないだろうか?

 あの定期集会に集まっていた数百人にも上る騎士や魔術師の人達が協力してくれたのなら、もしかしたら。

 いや、勝てるはずがない。

 思い出すだけで鳥肌が立つ、冥皇の底知れない実力に。

 本来なら、戦闘なんて選択肢に入れるなど不可能と言って差し支えない相手。

 だが、生き残るには戦って勝つしかない。

 平和になった日本にだって、弱肉強食の文化はあった。

 いつもいじめられていた清原なんかは、言っちゃなんだがいい例だろう。

 清原なんかは、日常的にそのことを感じていたのかもしれない。


「僕には、厳しいよ。」


 今までの生活でも他者との競争はあったが、何だかんだいって僕には才能があった。

 大抵のことなら、なんだってそつなくこなせた。

 本気で他人とぶつかり合った経験が無いんだ。

 そんな僕が世界最強の冥皇と戦って勝てるのか?

 断言できる、僕は今までの自分を観察した上で断言が出来るんだ。

 やるしかないのは重々承知だ。

 でも、一歩目を踏み出す勇気がない。

 僕に勇気をくれ、誰か....






「おい、佐々木原。なにそんな浮かない顔してんだよ。」


 その声の主は、まさかの小紋だった。

 こいつ、洗脳されてたんじゃないのか?

 いや違う、冥皇は何故か小紋の洗脳よりも清原の方に向かったからこいつは未だに洗脳されていないんだ。


「いや、ちょっと悩み事が多くてさ。小紋、お前は自分の身の安全を考えてればいい。」


 清原を倒した冥皇が次に狙うのは、きっと小紋だ。

 そして、長い間小紋と話していたらついでで僕も洗脳されてしまうことだろう。

 早急に会話は打ち切るのがベターだ。


「用事があるから、僕は先に訓練場に行っとくよ。」


 僕はこの絶望的な状況の打破をほとんど諦めつつも、何となくショウワールさんに昨日言われた通りに訓練場に向かっている。

 この行動に意味があるのかと問われれば、答えはノーだ。

 意味なんてない。

 ただ、やることが無いからなんとなく歩いているだけ。


「佐々木原、用事ってのはペテラウスに冥皇の企みを話に行くことか?」

「えっ?」


 小紋、今こいつなんて言った?



~あとがき~


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