第七話 『ヒロイン登場』


「まずは、打倒魔族のためにこの国に召喚された勇者様方の紹介をする。」


 ショウワールさんの一声で、俺たちはようやく冷静になることが出来た。

 この国ってヴィルフェンス王国って名前だったんだな、みたいなどうでもいいことにも頭が回る。


「では、勇者様の代表として佐々木原慎吾殿に挨拶をしていただく。」


 俺はこんな展開を聞いていないが、佐々木原は堂々とクラスメイト達の輪から抜け出してショウワールさんの隣まで歩く。

 俺が寝ている間に説明がされていたのか、クラスメイトも驚いた様子はない。

 このクラスの中心にいる奴とクラスメイトに聞けば、佐々木原慎吾という男が八割の票を集めるだろう。

 顔、成績、身体能力、コミュ力等の陽キャに必要なスペックは一様に高水準に揃っており、俺の真逆を生きるような奴だ。

 オーラとでもいえばいいのだろうか、いかにも主人公のような雰囲気をまとっているので、クラスメイトの中で佐々木原が代表に選ばれたことも妥当な判断だなと思える。

 若干肩が上がっているので、流石の佐々木原も緊張していると見える。


「初めまして、僕の名前は佐々木原慎吾です。一応、僕ら勇者の代表としてここ来ました。」


 周りの騎士や魔術師はそこまで関心を持っている感じは無い。


「勇者である僕たちは、この国を魔族の侵攻から守るために召喚されたと聞いています。しかし、僕たちはまだそこまで強くはないし、この世界のことをよく知らない。なので、魔族の侵略を止めるには力不足です。」


 なんか話す内容が、魔族の侵攻止めることは当たり前みたいな雰囲気になっている気がする。

 俺の居ない間にこのクラスの方針とかも決められてしまったのだろうか?

 まあ、魔族の侵攻止めることには賛成だけれども。

 「次元転移」を持っていれば、そうそう死にそうにそうに無いからね。


「魔族に勝つためには、僕らとこの国が一丸となって戦う必要があります。協力して、魔族の侵攻を止めましょう!」


 日本の普通の学生として上出来ではないのだろうか。

 俺では素の能力であんな演説は出来ない。

 つくづく才能の差を感じる。


「「「「「「「ううぅぉぉぉぉぉぉぉー--。」」」」」」」


 佐々木原が話し終えると、周りの騎士や魔術師から歓喜と興奮が入り混じった大きな歓声が上がった。

 何とも迫力が凄い。

 勇者たちも、その完成を聞いてどこか誇らしげだ。

 ショウワールさんの話では、この国は絶体絶命のピンチなのだと言われていたから、もしそれが誇張抜きな話ならば俺たち勇者は有り体に言えば救世主と言ったところか。

 しかも、自分たちにとって非常に理想的な救世主だ。

 喜ぶなと言う方が無理な話だ。


「では、勇者様方にお下がりしてもらえ。」


 そうショウワールさんが指示をだすと、俺たちを案内した騎士がみんなを先導して歩いていく。

 俺たちはあの部屋から出て、元々集まっていたところまで戻ってきた。

 普通に俺たちの紹介は終わったと言えるはずだ。





 だが、少し違和感が拭えないのは気のせいか。


「人を蹂躙する魔族なんて俺がぶっ飛ばしてやるよ。」


 少し、この国にとって理想的過ぎないか。


「俺たちのスキルがあれば魔族なんて一捻りだよな。」


 昨日まで平和に暮らしていた学生たちにしては考え方が少し好戦的過ぎではないか。


「そうだな、この国に住む人々の為にも、この国を何としても守らないとな。」


 まるで、ような、


「それでは、今から定期集会が終わるまでの三十分ほどは自由時間とさせていただきますので、この王宮から出ないのであれば好きに移動して構いません。」


 そんなことを考えていると、騎士の言葉を聞いたからか俺以外のクラスメイト達は歩きながらそれぞれの別々に歩いて行ってしまった。

 それを見て、俺も先程までの思考を一旦中断して、この三十分何をするかに頭を回す。

 しかし、俺が考え出した時一人だけこちらに向かってくる人影を見た。


「おーい。」


 誰だ?クラスメイトの中で、こんな状況で俺に話しかけてくる奴に心当たりなんて釜瀬並のいじめっ子達しか思い浮かばないんだけど。

 いや、一人だけ居るか。

 こんな状況でも俺を気にかけてくれるような奴が。


「ちょっと清原君、今までどこに居たの?探しても見つからないから焦ったんだよ。」


 そう話しかけてきたのは、このクラスのヒロインと言っても差し支えない女性、葉山絵里奈だ。

 長く健康的な黒髪をひらめかせながら走ってくるこの光景は、まさに「絵になる」という表現がぴったりだと思わせる。


「なんかさ、召喚された瞬間清原君が物凄い重傷を負っちゃったから、てっきり死んじゃったのかと思ったんだよ。」

「いや、俺も驚いたんだよ。起きたら周りがいかにも異世界、って感じで焦ってさ。」

「だよねだよね!」


 葉山は聞き上手なので、コミュ障の俺でも普通に話せる。

 だから、ついつい話し過ぎてしまって釜瀬達に邪魔をされて話を中断させられるのが地球でのお決まりだった。

 だが今日は邪魔が入らないので、何となくあのダンジョンに向かいながら長々と話してしまった。



~あとがき~


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