概要
男は、自分に名前をつけた。
ここはどこだ。青い塊を見上げて呟く言葉は、いつも同じだった。いつからここに、いつまでここに。答える声はない。ただ、青い物体は決まって顔をのぞかせるし、決まって沈んでしまう。
俺の隣に、石壁を隔てた隣には、同じように青い物体を見上げる子がいる。でも、これは運命も絆でもない。いつもそこにいて、隣りにいるだけだ。
それは、あの夜空を支配する穏やかな物体と同じだ。あれは、月という名前らしい。彼女は、自分の名前も知らないのにあの夜天を漂う青い塊の名前を教えてくれた。ただ、それだけだ。俺に月の名前を教えてくれるだけの存在。
精霊世界リテリュス。七つの大陸からなる世界。転輪聖王リュンヌが、創造した世界。その中でも一番大きな大陸アンフェールでは、建国以来ふたつの国が争っていた。800年以上も続く争いに、大
俺の隣に、石壁を隔てた隣には、同じように青い物体を見上げる子がいる。でも、これは運命も絆でもない。いつもそこにいて、隣りにいるだけだ。
それは、あの夜空を支配する穏やかな物体と同じだ。あれは、月という名前らしい。彼女は、自分の名前も知らないのにあの夜天を漂う青い塊の名前を教えてくれた。ただ、それだけだ。俺に月の名前を教えてくれるだけの存在。
精霊世界リテリュス。七つの大陸からなる世界。転輪聖王リュンヌが、創造した世界。その中でも一番大きな大陸アンフェールでは、建国以来ふたつの国が争っていた。800年以上も続く争いに、大
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- ★★★ Excellent!!!「黒曜」が照らす宿命の光、闇を裂く英雄譚への踏み絵
『黒曜』は、孤児リシャールの成長を描く物語でありながら、単なる英雄譚にはとどまりません。リシャールの幼少期の過酷な日々、そして貴族社会という新たな檻への足音。その一歩一歩が、物語全体に重厚なリズムを与え、読む者を深淵へと誘います。召喚術や「十二支石」という壮大な要素が絡み合い、リシャールの心の葛藤がより鮮明に浮かび上がる描写は圧巻です。美しくも冷たく、まるで読む者を試すかのような空気に満ちています。
闇の中で静かに脈打つ「黒曜」の輝き。その光が何を照らし出すのか、そしてリシャールが見出す未来とは何か。残酷な運命の歯車に挑む彼の物語が、私たちの心に何を問いかけるのか――