第24話 茨の妖怪イバラボウ


「あ、あれ……?」

 マニャは、目の前に広がる光景にとまどいました。

 目の前には、いばらの茂み。

 もちろん、昨日きのうはありませんでした。

「やっぱり……道、まちがえてたんだ……」

 マニャの耳としっぽが、へたりと垂れました。

 うすうす、気づいてはいました。

 昨日の道とちがってまわりの木々は背が高く、そのせいでの光がしこまず、朝だというのに薄暗うすぐらいのです。また昨日きのう通った道よりも、道はばがせまく感じました。

 けれど、高い木々の向こうがわ

 ちらほらと丘の上のお家が見えていたので、もし道を間違まちがえていたとしても、途中とちゅうで昨日の道に合流ごうりゅうするのではないかしらと思っていたのです。

 それに、ほの暗く気味の悪いこの道を、また引き返したいとは、どうしても思えませんでした。

 しかし。

「この茨じゃあ……向こう側には行けないなあ……」

 マニャは、ため息をきました。

 うろうろして、ぬけ道はないかとさがしたのですが、どうやら本当に行き止まりのようです。

 あきらめて、元来た道にもどろうとふり向いて、はたと気が付きました。

「え……どこから、来たんだろう」

 帰り道が、わかりません。

 ここは、ちょっとした空き地(と言っても、マニャくらいの子どもが四人か五人立ったらいっぱいになりそうなくらいしかありません)になっています。

ここへたどりついたのは、茨の茂みの反対側にある、背の低いやわらかな葉っぱの茂みをぬけてきたからでした。

 ならば、そちらの道へ戻ろうと思い、身をかがめて茂みの向こうをのぞきました。

すると、向こう側には道が三本もあるではありませんか!

 どの道から来たのか、まったく見当けんとうがつきませんでした。

「どうしよう……」

 マニャは、途方とほうにくれました。

 ざわざわざわ……

 風がきました。

 木々が、おおげさに枝をらします。葉っぱが、不安ふあんげな音を立てました。

 ぞぞぞ、とマニャの背筋せすじ寒気さむけが走ります。

 まわりの景色けしきは、どこも薄青うすあおくてくらく、空は遠くにせまくしか見えません。

 そのとき、マニャの脳裏のうりにある一つのお話がよぎりました。

 それは、イバラボウという妖怪ようかいのお話です。

 イバラボウは、茨があるところに住む妖怪で、茨を守っている大きなかげだと言われています。

 家のまわりにいばらをえておくと、このイバラボウが家ごと守ってくれるそうです。

 ですが、このように野生の茨のまわりに住むイバラボウは、近くに来た人をみさかいなくおそい、食べてしまうと言われていました。

 ぞぞぞぞぞぞっ

 マニャの背筋に、また寒気が走りました。

(ど、どうしよう)

 イバラボウがあらわれたら。

 イバラボウは、夕方から夜にしか出ないと言われていますが、しかし、ここはあまりにも薄暗く、まるでずっと夕方のようなのです。

(もしかしたら……もしかしたら)

 マニャのしっぽが、くるりんと足と足の間に入ります。

 身体中の毛が、ぼわぼわと立っていきます。

(は、はやく、とにかくどこかの道をつかってここからはなれなきゃ!)

 と思ったそのときでした。


 ガサガサガサッ

 ザザザザザッ


「──ッ!」

 後ろの茂みがはげしくれました。

(い、いばらぼうだっ)

 もうだめだっ、とマニャは目を閉じました。

(ノイちゃんに、あやまれてないのになぁ)


 ガサガサガサッ ザザッ


 黒い影が、マニャにびつきました。

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