第15話 ステージのある家


「ここ……かぁ……」

「……」

 ようやくたどりいたおかの上。

 そこに立つ建物たてものは、とおくで見るよりも大きく見えました。

 四角のはこが六つ、無造作むぞうさまれた積み木のようにかさなっている家です。

 まず、下に二つの箱。上にもう二つっているのですが、左側の箱が、下の箱より三分の一ほど外にび出しています。

 そして、そんな真ん中の箱の上に、長方形の箱が一つ、はしわたすように乗っていて、その上に一回り小さな正方形の箱が乗っています。

 そして、いちばん上の正方形の箱の上には、ガラスで出来たドームがぽんと乗っかっているのでした。

 家のまわりは、広い運動場のようなスペースで、ステージもありました。

 ここで練習をしているのでしょうか。

 ステージには、イスや箱がいてありましたが、ひとの姿はありません。

 門のかげから、二人はひょこっと顔を出してあたりをうかがいますが、どうも目的もくてきの人たちは家の中にいるようです。

 門から家までは、少し距離きょりがありました。

「……だれか、いないかなぁ」

 おいしいガレットを食べているときは勇気ゆうきがみなぎっていた二人ですが、いざ家の前に立つと、急に緊張きんちょうもどって来てしまったのでした。

(もどってこなくていいのに……)

 律儀りちぎに戻って来たドキドキに、マニャは、へんにょりと耳をらします。

「だれか一人だけ、外にいたらいちばんいいんだけどな」

 マニャが言いました。

 そうしたら、ドキドキしながらでも、おつかいのものをわたして、自分たちの荷物にもつのことをたのんで、そうしてすぐさまかえれるのに。

 ノイも、門から顔を出してきょろきょろあたりを見まわしますが、残念ざんねんながらだれかがいる様子ようすはありません。

 これはもう、勇気をふりしぼって玄関げんかんのところまで行き、ドアをノックして、だれかに出て来てもらうしかないようです。

 二人が、顔を見合わせ、うなずき合おうとした、そのときでした。

「そんなところで何してるの?」

「!」

「ッ?」

 二人の後ろから、声がしました。

 二人はびっくりして、キャッとび上がります。

 おそるおそるふり返ると、そこには一人のイヌ人の男のひとがいました。

「わあ、かわいい。ちっちゃい子だ。どこの子?」

 そのひとは、ひょく、と首をかしげました。

 大きなお耳に、くりくりした目。茶色と白のふわふわの毛。おっきなお耳は、元気よくピンと立っていて、まるでちょうちょのようです。

 ちっちゃな二人にとっては、おっきな大人ですが、同じイヌ人の中でも小さなそのひとは、おそらく、イヌ人の中のパピヨンぞくのひとでしょう。

 興味深きょうみぶかそうに、二人をじっと見ています。

「このへんの子? 迷子まいごじゃないよね?」

 高い声ですが、大人の男のひとです。矢つぎばや質問しつもんされて、マニャは混乱こんらんしました。

 こしにギュッときつくノイのぬくもりを感じます。

 しっかりしなくては、と思うのですが、うまいこと言葉が出てきてくれません。

「ニソロちゃん、何してんの?」

「あ、ノイくん」

 ノイくん、と言われて、ノイがビクッと震えました。マニャも「え?」と目を丸くします。

 けれど、ニソロと呼ばれた彼はノイたちの方を見ていませんでした。

 自分の後ろにいるひとをふり返り見ていました。

 いつのまにか、もう一人ひとがえています。

「この子たち見て! めっちゃかわいい」

「あらあら」

(このひと……)

 そのひとは、ふしぎなひとでした。

 まず、ヤモリ人によくた姿をしていましたが、とてもあざやかでキレイな緑の身体をしていました。

 けれど、ヤモリ人と違って、短い体毛におおわれています。

 みなさんの世界には、ヤモリやオオサンショウウオのぬいぐるみがあると思いますが、まさしくそれが立って服を着て二足歩行にそくほこうをしている……と想像そうぞうしたら、わかりやすいでしょう。

(なに人だろう……)

 すらりと細く、背が高いです。

 けれども、まったくこわい印象いんしょうはありませんでした。

 目が、まるでえんぴつで一本線いっぽんせんを引いたみたいに細くて、わらっているように見えるからでしょうか。

「わー、ほんとだ、かわいい。ちっちゃい」

 ノイくんと呼ばれたそのふしぎな人は、細い目をより細めて、はしゃいだ声を出しました。

「ねえねえ、君たち、どこの子? お名前なまえは? 君たちだけでここに来たの?」

「こらこら、ニソロ。この子たち、びっくりしちゃってんじゃん。そんないきおいよく話しかけないの」

 そう言うと、ノイさんは、二人の前にかがみこみました。

 ぬ、といきなり顔が近くなって、マニャのしっぽがボッとふくらみます。

「はじめまして。おれの名前はノイ。こっちは」

「ニソロだよー」

「っていうんだ。よろしくね。きみたちは?」

「えっと……」

 にこにこ。にこにこ。

 二人は、ずっと笑顔でこちらを見ています。

 いい人そうです。

 けれど、マニャはドキドキしてなかなか話せません。

 腰に抱きついているノイのぬくもりに勇気づけられながらも、どこからお話すればいいか、頭の中がしっちゃかめっちゃかです。

「……」

 目の前にいるノイさんは、マニャの頭の中がわかったのでしょうか。

 ただだまって、にこにこっています。

 ニソロさんもわかっているのか、今は口をつぐんで待っています。

 ですが、「あ」と何かに気づいてかれもしゃがみました。

「二人とも、めっちゃ荷物にもつ持ってんね。おもくない?」

 持とうか? とニソロさんが手をし出します。

 そこで、マニャはハッとして、荷物を前に出すと、

「えっと、おとどけものです。あの、マグノーさんから!」

 とあわてて言いました。

「……マグノーさんが、めずらしいね」

 ノイさんとニソロさんが、二人から荷物を受けとりつつ、首をかしげます。

「えっと、あの……」

 何かありそうだ、とさっしたノイさんが、あらためて細い目をさらにふにゃんと細めました。

「あれだったら、中でゆっくり話さない? おかしあるよ」

「うん! そうしよう。マグノーさんのところから来たんだったら、つかれてるでしょ? 休んでいきなよ!」

 途中とちゅうで休けいしました、と言い出すひまもなく、二人はあれよあれよという間に、み木の家の中へと案内あんないされてしまいました。

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