第14話 丘の上のお家へ


「丘の上まで、どれくらいかかるかな?」

 ノイが言いました。

「うーん……大人の足で二十分から三十分って言ってたから……」

 子どものマニャたちは、もっとかかるだろうと思いました。

 何より、大荷物おおにもつを持っています。

途中とちゅうで、休けいしようね」

 マニャが言うと、ノイは「うん」とうなずきました。

「おかし、ちょっとたのしみ」

 くふふとわらうノイに、マニャも思わずみがこぼれます。

「何だろうね」

「クッキーだといいなあ」

「ビスケットでもうれしいかも」

「スコーンは?」

「白パンもうれしい」

「僕は、黒パンでもいいよ!」

 二人で交互こうごにおかしを予想よそうしました。

 さわさわさわ……かさかさかさ……

 さわやかなかぜに、木々の葉っぱがサラサラゆれます。

 ゆれると、まるでコソコソ話のささやき声です。

 マニャとノイは、葉っぱたちに見られているみたいだと思って、顔を見合わせると、れたようにかたをすくめました。

 しっぽをゆらん、とひとつゆらすと、あとはだまって歩きます。

 とっとこ、とっとこ。とっとことっと。

 みちは、どんどんゆるやかな坂道になっていきます。

 シャラシャラシャラシャラ……

 どこかから水音がします。

 どうやら、近くに小川がながれているようです。

 お日さまが、さっきよりも上にのぼってきています。

 背中せなかがぽかぽかしてきました。

 さああ、と風がくと、二人は目を細めて気持きもちよさそうにひげをそよがせます。

 少し冷たい風でも、ちょうどよくかんじます。

「おねえ、のどかわいた」

 長いこと坂道を歩いて、そろそろ二十分くらいたとうというころでしょうか。

 ノイが、マニャの手をくいっと引きました。

 へにょんと耳としっぽがれています。

 マニャも、荷物にもつかかえている手が、じんじんして来たころです。

「休けいしようか」

「さんせーい」

 二人は、道のはたにると、大きな木の根元にまずそっと荷物にもつを立てかけました。

 それから、その横に自分たちもすわって、まずはお菓子かしの入ったふくろから水筒すいとうを取り出します。

 これも、マグノーさんが用意よういしてくれたものです。

 まずは、ノイがふたを開け、そっと中身をそこへそそぎます。

「! お茶だ!」

「このにおいは……マクロ豆茶だね」

 あまこうばしいかおりがするお茶は、い茶色で、ほどよくえていました。

「おいしい!」

 ノイが一気に飲んで、にっこり笑顔をかべました。

 次にマニャも飲んで、にっこり「美味おいしい」と言いました。

 さて、お次はお菓子かしです。

 かわいらしいうすもも色のやわらかな紙袋かみぶくろつつまれていたのは、ガレット(まるくて、かためのクッキー)でした。

「わあい、やったぁ!」

 うれしそうにノイが、ぱくんと食べます。

 香ばしく、サクサクした感触かんしょくで、甘いけれどほのかに塩味しおあじもきいているおいしいガレットです。

「かわいい……」

 ガレットのおもてには、トリのマークのいんされていました。

 おそらく、コクマルガラス人をかたどったマークです。

「おいしいねぇ」

「おいしい」

「これなら、はじめて会う人にもがんばってあいさつ出来るかも」

「初めての人が六人でも、なんとかなるかも」

 二人は、足をなげだして、にこにこ笑顔で、ガレットをぜんぶ食べてしまいました。


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