第13話 マグノーさんのおつかい、ふたたび


 次の日。

 二人は約束やくそくどおり、朝の十時にマグノーリエさんの家へ行きました。

「おはよう。入って」

 マグノーさんは、相変あいかわらずにこりともせずに二人をまねき入れます。

「今日は、おかの上の家に行ってほしいんだけど」

「丘の上の」

「おうち?」

 二人は、顔を見合わせて首をかしげました。

 トットコ森には、まちとは反対方向はんたいほうこう、二つの池からは北の方にこんもりと丘がありました。

 たしかに、その上にも大きな家がっているのは知っています。

 マニャたちの家の、いちばん上の部屋から少し見えるからです。

 四角の箱がいくつかかさなっていて、てっぺんにはガラスのドームみたいなものがかぶさっている、そんな形の家です。

「そう。そこにんでいる人たちのことは知っている?」

 マグノーさんが、たずねます。

「えっと……旅芸人たびげいにんさんたちが、住んでるって聞いたことがあります」

 正しくは、各地かくちを旅するおどり子さんたちだった気がします。

 けれど、うたおどりもお芝居しばいも、なんでもやると聞いていたので「旅芸人さんみたい」と思ったのでした。

「そう。世界で活躍かつやくするショーマス一座いちざ、そこにぞくする『ファオス舞踏団ぶとうだん』が住んでいるお家。その、『ファオス舞踏団』の六人組に、これをとどけてほしくてね」

 マグノーさんは、作業机の上に用意した紙袋かみぶくろしました。

「ちなみに、君たちのあのワンピースをはこぶのも、かれらだよ」

「そうなんですか?」

「彼らも、例のお祭りに参加するからね。彼らを運ぶ馬車や船は、他よりもはや特急便とっきゅうびんなんだ」

 馬車は、ウマ人がひく車のことです。

 ウマ人は力が強くて足が速いので、よく何人もの仲間なかまんで、物や人を運ぶ仕事しごとについていました。

「だからね、僕のおつかいついでに、君たちからもちゃんとおねがいしてくれるかい。いちおう、僕もお願いの手紙てがみを書いているけれど、やっぱり君たちのものだしね」

 それは、もっともな話です。

「わかりました」

 マニャは、こくんとうなずきました。

 ノイもいっしょにひとつ、うなずきました。

(六人組……かあ。いきなり、六人のひとたちとはじめましてかぁ……)

 マニャは、心にズンと大きな重石おもしせられたような気がしました。

 そんなマニャを見上げて、ノイがすりすりとマニャのうでほほをすりせます。

 あまえているような。いっしょにがんばろ、と応援おうえんしてくれているような。

 ノイの仕草しぐさに、マニャはホッと息をきました。

 そんな二人の緊張きんちょうを知ってか知らずか、

「……六人組と言っても、全員ぜんいんいるほうすくないけどね」

 ボソッとマグノーさんが、そう言いました。

「そうなんですか?」

「うん。みんな、売れっ子の踊り子だからさ。色んなところにばれるんだ。六人そろって行くこともあるけど、それぞれバラバラの活動かつどうおおいんだよ」

 ということは、今日は少ない可能性かのうせいもあるわけです。

(一人とか、二人とかだったらいいなあ)

 マニャとノイは思いました。

「誰もいないってことはいと思うから安心あんしんして。今日か明日には、お祭り用の衣装いしょうとどけるって手紙をおくってあるから」

「わかりました」

 ふくろは、ぜんぶで六個ろっこありました。

 二人で分けっこして……マニャの方がちょっと多めに……って、また玄関げんかんに立ちます。

「そっちのふくろには、お菓子かしが入ってるよ。途中とちゅうで休けいするときにでも食べて」

 ノイが持っている袋の一つをして、ぶっきらぼうにマグノーさんが言いました。

「あ、ありがとうございます」

「……気をつけて」

 マグノーさんに見送られ、二人は丘の上の家を目指めざすことにしました。

 やっぱりマグノーさんは、今回も見えなくなるまで二人を見守みまもっていました。


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