第4話 マグノーリエさんについて


 マグノーさん。

 ちゃんとしたお名前を、マグノーリエさんと言います。

 二人のお家から歩いて十五分ほどのところにある、これまた大きな木のうろに住んでいるコクマルガラス人のマグノーリエさんは、仕立て屋さんです。

 コクマルガラス人は、カラス人よりも小さくて、胸元や頭の後ろが白く、ちょっと親近感しんきんかんをおぼえるマニャやノイでしたが、その親近感を上回るこわさが、マグノーさんにはありました。

 マグノーさんは、いつ会っても仏頂面ぶっちょうづらなのです。にこりともしません。

彼女かのじょ、いいうでを持ってるけど、無愛想ぶあいそうなんだよねぇ。いい人だから、気にしたことはないけどね」

 お母さんも前にそう言っていました。

 お母さんは気にしなくても、マニャとノイは気にします。

 にこりともしない大人がいると、それだけで子どもはこわいのです。

 ただでさえ、大人という存在そんざいそのものがこわいのに。

 出来れば、マグノーさんのところへは行きたくありませんでした。

 けれど、ワンピースのやぶれは直さないといけません。完ぺきな形でお母さんたちに送って、そしてジャーダさんのもとにすてきなままとどいてほしいのです。

「……よし。今から、マグノーさんのところへ行く」

 マニャは、決意けついしました。

 もちろん、マニャ一人で行くつもりです。

 まったく気乗りはしませんでしたが、ワンピースを破いてしまったのは、わざとではなくとも、マニャです。それに、前にお父さんが言っていました。


「いいかい? マニャにもこわいことはたくさんあるだろうけれど、ノイには、もっとこわいことが多いんだよ」

 それは、マニャがもう少し小さなころのことでした。

「マニャが成長して、『これはもうこわくないな』って思えたことを、ノイはまだこわいかもしれない。だって、まだマニャの成長に追いついていないんだからね。だからマニャは、そこのところ気をつけてあげてほしいんだ」


 マニャだって、よく知らない大人はとてもこわいです。

 けれどきっと、マニャ以上にノイの方がこわがるだろうと思ったのです。

 ノイにこわい思いをさせるのは、マニャにとって嫌なことでした。

「おねえ、行ってくるよ、ノイちゃん」

 垂れそうになる耳としっぽを一生けんめいピンッと立て、マニャは言いました。

 すると。

「じゃあ、ぼくもいっしょに行く」

 ノイも、耳としっぽをがんばってピンッと立てて言いました。

「え?」

「僕も行く」

 ノイの耳としっぽは、ぷるぷるふるえていました。

 けれど、目はキリッとして、強い光をたたえています。

 本気で言っているのだな、とマニャにも伝わりました。

「いいの?」

「行く」

 ノイは、こくんと首をたてにふります。

 マニャは、ノイがこわい思いをしないか心配すると同時に、少し安心しました。

 一人で行くのが、やっぱり本当はこわかったのです。

「じゃあ、行こうか」

「うん!」

 ノイが、マニャの手をにぎりました。


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