第21話 じけんぼっぱつ


 翌朝よくあさ

 事件じけんが起きました。

「ノイちゃんのバカ!」

「ふんだ! もうおねえなんか知らないっ」

 ケンカです。

 ふだん仲良なかよしの二人が、今朝ケンカをしてしまいました。

 ケンカの原因げんいんは、食パンの耳。

 昨日、二人はマグノーリエさんから食パンをもらいました。

 なんでも、ディリノーさんが作ってって来てくれたもので、そのおすそわけということでした。

 二人は大喜おおよろこびしました。

 パンは、お父さんお母さんがいるときにしか作れません。

 となりまちにパン屋さんはありますが、子どもたちだけでまちに行くことは禁止きんしされています。

 だから、二人にとってパンというのは、ちょっと特別とくべつな食べものなのでした。

 今朝けさ、マニャとノイはパンをストーブできました。

 焼くと、パンの耳がカリカリになってより美味おいしくなるのです。

 ノイはいつも、パクパクと上から下に向かってまっすぐ食べます。

 マニャは、パンの耳だけのこして、先に白い部分ぶぶんを食べてからカリカリの耳の部分を味わって食べます。

 今日も、マニャはそうして白い部分を食べていました。

 ときどき、パンの耳もつまみながら。

 一番カリカリの部分はもちろん、最後のとっときです。

(あ、そうだ。スターチオのジャムがまだあったっけ)

 そのときマニャは、スターチオの実のジャムが、戸棚とだなにあったことを思い出しました。

 緑色で、あまくてこうばしいジャムは、二人のお気に入りでした。

(あれをけて食べよう)

 ぴょいとイスからび下りると、マニャはいそいそと戸棚の方へ、ジャムを取りに行きました。

「……」

 ノイは、自分の分を食べおえました。

 ちょっともの足りないなあ、と思って、マニャのお皿を見ます。

 美味おいしそうに焼けたパンの耳が、今か今かとノイに食べられるのをっているような気がしました。

 いつもだったら、ノイはパンの耳をそこまでしいとは思いません。

白い部分といっしょに食べる方が好きだからです。

 もし欲しくなれば、マニャにことわってから食べます。

 けれど、今朝はまだ昨日のつかれがのこっていました。

 少しねむい気もします。

(ちょっとだけ)

 そう思って、ノイは、ひょいと一番焼けた耳をつまんでポイッと口にほうり込みました。

 ちょうどそのとき、

「あ!」

 マニャがテーブルにもどってきました。

 一番楽しみに取っておいた耳が、食べられたことにすぐ気が付きました。

 食べられたと気づいた瞬間しゅんかん

「ノイちゃんのバカ! 何やってるの!」

 マニャはさけんでいました。

 いきなり大声でバカと言われて、ノイはびっくりしました。

 しっぽが、ボッと大きくなります。

 そして、とてもかなしくなり、バツがわるくなり、ムッとしました。

「おねえのケチ! 食べたの、ちょっとだけだもん!」

「でもお姉がいちばん楽しみにしてたところじゃない!」

「そんなの、知らないもん!」

 マニャも、悲しくなって、そして怒りがブワーッと頭いっぱいに広がるのを感じました。

 マニャのしっぽもぶわぶわと大きくなっていました。

「ノイちゃんのバカ!」

 もう一度、大きな声で言いました。

「ふんだ! もうお姉なんか知らないっ」

 ノイも、さけびました。

 まーなんてひどいの! とマニャは思って、そのままぷいっと部屋を出て行きました。

 玄関げんかんのところまで一気にりると、そのまま家をび出します。

「今日は、私ひとりで行ってくるっ!」

 そう言って、バタンッととびらを、たたきつけるようにしてめました。


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