第20話 はじめてだらけ


「すごかったね」

「うん。すごかった」

 自分たちの家に帰って来たマニャとノイは、大きなソファーの上で、二人ならんで寝転ねころんでいました。

「まるで、んでるみたいだった」

「トリ人さんじゃないのにね」

 二人の脳裏のうりには、さっき見たクラムさん、ニソロさん、ノイさんのおどりがありありとかんでいました。

 まだすぐそこで、踊っているみたいに。

 身体の重さなんかいみたいにねたり、回ったり。

 歌も、風のようにどこまでもひびいていくみたいに、びやかに聞こえました。

「マグノーさんもすごかった」

 ノイが、ぽつんと言いました。

「すごかったね」

 マニャも同意どういしました。

 丘の家からのかえり道、二人はまたマグノーリエさんのお家にもったのです。

『もしよかったら、このマドレーヌ、マグノーさんにわたしてくれるかな? 明日でもいいから』

 そう言って、クラムさんからお土産みやげにわたされたマドレーヌをとどけに行ったのでした。

 明日でもいいと言われたけれど、できたてに近い方がおいしいだろうと二人で話しあって、立ち寄ることにしたのです。

 ちなみにマニャとノイの分もありました。

 マグノーさんにマドレーヌをわたすと、マグノーさんは目を丸くしたあと、

『……ありがと』

 と小さくお礼を言ってくれました。

 ほんの少しだけ、目もとがほころんで、わらっているみたいに見えました。

 マニャとノイはびっくりして、顔を見合みあわせました。

 昨日も笑顔を見て、今日も見ました。

 今まで見たことなんて無かったのに、すでに二度も!

『そういえば、つくろいの方はもうわったよ』

 そう言って、マグノーさんは二人をお家に入れてくれました。

 部屋の中に入るとさらにびっくり、本当に言われたとおり、あの衣しょうが、すっかりもとどおりに……いいえ、もとどおりではなかったのですが、やぶれたところはキレイに直されており、言われなくてはわからないくらいでした。

 ちがうのは、

『あ、ぬのされてる……』

 かたからスカートの方へたれさがる布が、一枚いちまいつけ足されていることでした。

 新しい布は、昨日、マニャとノイがディリノーさんからわたされたおまけの布です。

 昨日きのう言った通り、マグノーさんはワンピースに布を足したのでした。

『だいたい、理想通りそうどおりに出来たよ』

 そう言って、マグノーさんは目をキラキラとかがやかせました。

『もっとすその方をととのえて……あとは、このへんをもう少し短くしたら、もっと良くなる。今夜がんばったら、きっと明日には出来るよ』

 マグノーさんは、服を直すだけではなく、さらにステキな服になるようにがんばってくれていたのです。

 たった二日でここまで仕上しあげてくれたことにも、もっとステキにしようとしてくれていることにも、マニャとノイはおどろきました。

「昨日と今日、おどろきっぱなしだね……」

「うん……」

 もちろん、昨日のディリノーさんやケリさんとの出会いもおどろきでした。

 無愛想ぶあいそうでこわいケリさんだけれど、心配しんぱいもしてくれていたこと。

 ディリノーさんのお家の、たくさんの調和ちょうわちた家具かぐや絵、彫刻ちょうこくうつくしい布……。

 新しいことばかりで、たのしい反面はんめん、マニャとノイはつかれてもいました。

「今日はもう、ごはんいいかなぁ……」

「うん……ねむい……でもマドレーヌ食べたい……」

「マドレーヌだけ、食べようね……」

 明日も、おつかいがっています。

 マニャは、ふうぅと大きくため息をつきました。

 ノイも、真似まねして、ふすぅと大きく息をつきました。

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