第7話 おとなは、こわくない?


「……」

「……」

「……」

 とっとこ とっとこ とっとこ とっとこ

 秋の森は、少しかわいた甘いにおいがします。

 葉っぱは、緑から赤へと衣がえの真っただ中。

 そんな森の中を、三人はだまって歩いています。

 先頭は、もちろんケリさん。

 マニャとノイの二人は、ケリさんから二、三歩うしろを歩いています。

 しっかり手をつないで。

 ケリさんの姿すがたを見失わないように。

 けれど、近づくのはこわいから、ちょっと後ろから。

「おねえ、お姉」

 ノイが、マニャの手を引きました。

 ひそひそと小さな声で、マニャをびます。

「どうしたの、ノイちゃん」

 マニャも、小さな声でこたえます。

「あのね、マグノーさん、おもったよりこわくなかったね」

 こしょこしょとノイが言いました。

 マニャは、うなずきました。

「うん。あいかわらず無愛想ぶあいそうだったけど、どうしてだろう。こわくなかったね」

 マグノーさんは、話しているあいだ一度もにこりとしませんでした。

 けれど、何故なぜかひやりとした気持ちにはなりませんでした。

 三人がディリノーさんのお家に行くとなったとき。

 玄関げんかん先でお見送りをしてくれたのですが、長いこと外に出て三人を見ていました。

 たまたまふりかえったノイが気付いて、マニャにおしえてくれたのです。

 手をふったりはしませんでしたが、マグノーさんは、じっと三人を見守っていました。

 マニャとノイは、その姿が見えなくなるまで、つまりマグノーさんの木のお家が見えなくなるまで、ときどきふりかえりましたが、マグノーさんの姿はずっとそこにありました。

「大人って、話してみるとこわくなくなるものなのかな」

「わからない。そうなのかな?」

 二人がこそこそ話していると、

「おい」

 ケリさんが、こちらをふりかえりました。

「はい!」

 ビクッとふるえて、マニャが返事をします。

「あまりはなれるな。はぐれるぞ」

「はい!」

 ケリさんはぶっきらぼうにそう言うと、また歩きはじめました。

「……ケリさんは、話してもちょっとこわい」

 ノイが言って、ギュッとマニャの手をにぎります。

 そのとおりだと思ったので、マニャもノイの手をギュッとにぎりかえしました。

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