トットコ森のマニャとノイ

飛鳥井 作太

第1話 マニャーナとノイ、ネコ人きょうだい


 トットコ森は、みなさんの世界のうらがわにあります。

 パラレルワールドというひともいれば、もうひとつの世界というひともいます。虹の橋のふもと、というひとも、もしかしたらいるかもしれません。

 いろんな言い方がありますが、とにかく、みなさんの世界のうらがわにあるもうひとつの世界です。

 きれいな葉っぱがいしげる木がたくさんあって、その木々の間をきらきら光る小川がとおります。

 日本という国とおなじように季節は四つ。

 春と夏と秋と冬があります。

 春にはいいにおいの花がさいて、夏にはもっと緑が、こゆくまばゆくかがやきます。

 秋にはおいしい木の実がなって、冬には真っ白な雪がふりつもります。


 今の季節は、秋のはじめ。

 葉っぱが色づきはじめて、空はうーんと高くなっていく。そんな季節。

 森のおく、ちょっとひらけた場所に、大きな木がありました。

 ずっしりと立派なみきに、どっしりと太い枝。そこに、家がっています。

 あっちの枝にひとつ、こっちの枝にひとつ。そんな風に点々と五つの家が建っていて、それぞれがつつでつながっていました。

 みなさんの世界でいうなら、そう、キャットタワーとよくた形をしています。

 それもそのはず。

 この家に住んでいるのは、ネコの家族なのです。

 ネコといっても、みなさんの世界にいるネコとは少しちがいます。

 ネコが二本足で立って、洋服を着ているすがたを想像そうぞうして下さい。

 そう、それが、この世界でのネコ……ネコのひと、ネコ人です。

 この家には、ネコ人の四人家族が住んでいます。


 お父さんのシンさんと、お母さんのマハルさん。

 そして、子どもたち、マニャーナとノイです。

 マニャーナは、マニャとよばれていて、みなさんの世界でいうところの小学校高学年くらいの女の子です。

 ノイは、小学校低学年くらいの男の子。

 マニャは、真っ黒な毛並けなみに、口まわりと手と足だけが白。

 ノイは、黒い毛が鼻筋はなすじで左右に分かれる白黒のハチワレネコです。

 シンさんは黒ネコ、マハルさんは白に黒のぶちネコなので、ちょうどよく両親のとくちょうをもらったきょうだいです。


 シンさんとマハルさんは、旅する洋服屋さんです。いろいろな服を、さまざまなところで売っています。

 マニャとノイくらいのとしだと、お父さんお母さんといっしょに旅をすることが多いのですが、二人はとても人見知りでした。

 シンさんとマハルさんもそれをよくわかっていたので、二人にるすをまかせて旅に出ます。

 だからいつも、シンさんとマハルさんが旅に出ると、きょうだい二人でおるすばんをしていました。

お父さんとお母さんが一ヶ月や二ヶ月いないこともざらでしたが、それでも何もこわいことも、不自由なこともありません。

 ただちょっと、夜にさみしくなることがあるくらいです。

 それでも、二人でよりそってねむればへっちゃらでした。


 二人は毎日、少しおそい朝に起きて身じたくをすると、家のまわりであそびます。

 木の上をぴょんぴょんわたって鬼ごっこをしたり、しげみでかくれんぼをしたり。

 そのついでに、まきにする枝を取ったり、木の実を取ったりもします。


 雨の日には、家の中で同じように走りまわってすごします。

 キャットタワーみたいになっているので、はしごを飛ぶようにりたり、たな階段かいだんを使ってかけ上がったりするのが、とてもたのしいのです。


 そして、クラッカーやショートブレッド(クッキーとよく似た四角い食べ物です)、スープのお昼ごはんをすますと、今度はおひるねをしたり、本を読んだりします。

 シンさんもマハルさんもたくさん本を読むので、キャットタワーのお家のひとつは、本の部屋になっています。

 本の部屋で、それぞれくっついて本を読んだり、はなれてひるねしたり。マニャがノイに本を読んであげることもありました。

 ノイは、マニャに本を読んでもらうのが大好きなので、週に何度なんどかはおねだりします。

 近ごろ二人がハマっているのは、妖精ようせい妖怪ようかいが出て来る本です。

 こわかったり、ゆかいだったり、見えない何かの世界が面白くて仕方ありません。


 それから夜になって、スープやパンケーキの夕ごはんをすますと、また家の中を走り回ったり、ごっこ遊びをしたりして、ねむくなるまで遊びます。

 気になる本があるときは、本をずっと読んでいることもあります。

 このきょうだい二人の毎日は、そうやってすぎていきます。


 そんなある日の、昼のこと。

 ふりかえれば、あのときから今回のことがぜんぶはじまったような気がすると、あとになってマニャは思いました。

 きっかけとなったことは、もっとまえのはずなのだけど、なぜか、あの昼のマレーアさんのおとずれこそが、はじまりだとマニャは思ったのです。

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