第2話 ツバメ人のマレーアさん

 トントントンッ

「ごめんくださーい」

 ノックのあとに、すんだ声がしました。

郵便屋ゆうびんやさんのマレーアさんです。

 マレーアさんは、ツバメ人の女のひとで、いつもこの森にお手紙や小包こづつみをとどけてくれます。

 黒いつばさが美しい、しなやかな美人さんです。

 マレーアさん自体は森のはずれ、まちとの境目さかいめあたりに住んでいるのですが、郵便配達ゆうびんはいたつ以外のことでもよくマニャとノイの家におとずれます。

 マハルさんとマレーアさんは、仲のよいお友だちなのです。

 だから、人見知りのマニャとノイでも、ふつうにお話できる貴重きちょうな大人でもありました。

「マレーアさんだ!」

「きっとおかあさんとおとうさんのお手紙をとどけに来てくれたんだ!」

 二人は、ぶように玄関げんかんの方へ走っていきました。

「こんにちは、マレーアさん!」

「こんにちは!」

「マニャちゃん、ノイちゃん、こんにちは。おかあさんたちのお手紙をとどけに来ましたよ」

 にこにこと笑って、マレーアさんが言います。

「入って入って、マレーアさん」

 ノイが、ぐいぐいとマレーアさんの手……つばさの先を引っぱります。

 みなさんの世界だと、子猫の方がツバメよりも大きいものですが、この世界では、みんなたいていはたような大きさで、どんな種族であれ、大人の方が子どもよりも大きいのでした。

 だからマレーアさんは、ちっちゃなノイに合わせるように多少かがんであげています。

「今、お茶を入れますね」

「わあ、ありがとう」

 マニャもうれしそうに、いそいそとキッチンへ向かいます。


 今日のお茶は、マレーアさんの好きなソラツユ草のお茶です。

 青色の花びらと葉っぱをかわかして作るお茶で、お湯を注ぐときれいな空色になります。

 においはスーッとしたさわやかな香りで、味は、すっきりとした甘い味です。

 熱々あつあつではなく、少し冷ましてから、透明とうめいなグラスのカップにそそぎます。

 マレーアさんには、そこの深いカップにストローを入れて出すのが決まりです。

「どうぞ」

「ありがとう。ふふっ、相変わらず、きれいな色だねぇ」

 マレーアさんは、のんびりそう言うと、ひと口お茶を飲みました。

「うん、おいしい。マニャちゃん、またうでをあげたんだね」

「えへへ……」

 マニャは、照れくさそうにおひげをぴくぴくさせました。

「すごい、お母さんたち、もうみなとにいたんだって!」

 マレーアさんのとなりに座り、手紙を読んでいたノイが、声を上げました。

「本当? 早いね」

「今回は、南のアミャミン諸島しょとうの方に行くのだっけ?」

「うん。そこで、大きなお洋服のおまつりがあるんだって」

 マレーアさんの問いに、マニャが答えました。

「おようふくのおまつりなんだけど、ごはんのお店もたくさんあって、あとステージもあるんだって!」

ノイも元気よく答えます。

「いろんなおどり子さんや旅芸人たびげいにんのひとたちが、歌ったりおどったり、げきをしたり、とっても楽しいよってお母さんたち、言ってたね」

「そうなんだ。じゃあ、ちょっと寄ってみようかな」

「あ、そうか」

 マニャの目が、くるんと大きくなります。

「マレーアさん、そろそろ南の方に行くんだね」

「うん。そうだよ」

 ツバメ人のマレーアさんは、秋になると南へ向けて旅に出ます。

 南の島にもお家があって、秋冬のあいだは、そこで郵便屋さんをやるのです。帰って来るのは、来年の春です。

「明日の朝早くにね」

「そっかあ……さみしいなあ」

 二人の耳としっぽが、へたんと垂れてしまいます。

「また、春におみやげたくさん持ってくるからね」

 マレーアさんは、しょんぼりしてしまった二人の頭をなでて言いました。

 それから二人は、お父さんとお母さんに手紙を書いて、マレーアさんにわたしました。

 マレーアさんが、南の島のお家に行くついでに、お母さんたちがお店を出すお祭りに寄ってくれるからです。

「必ず、届けるからね」

 そう言って、マレーアさんは手を振って帰っていきました。

 次に会えるのは、春です。

「おとうさんとおかあさんは、それまでに帰ってくるんだよね?」

 ノイが、たずねました。耳がぺたんと下がったままです。

「たぶん、そのはず」

 マニャの耳も、ぺたんと下がっています。

「……ごはん、早めに食べよっか」

「うん」

 こんな日は、おいしいものを食べて、早くてしまうか、楽しい本を読むのがいちばんです。

 二人は、手をつないで部屋の中へ戻っていきました。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る