第26話 見えていなかった後ろのこと


「あれ、ケリさん。めずらしいね。うちまで来るの」

「……野暮用やぼようだ。もっとも、お前らに用は無いが」

 丘の上の家にたどりつくと、門のところに、ゴリラ人の人が立っていました。

 タオルであせいているところで、目をぱちくりとさせています。

 きっと、おどりの練習をしていたのでしょう。

(お、おっきい……)

(おっきい……)

 マニャとノイのしっぽが、ぼわわと広がりました。

「お前らに用があるのは、こっちだ」

 トンッとケリさんが二人の背中をたたいて、前にし出しました。

「あ、君ら、あれか。ノイくんとニソロくんが言ってた、マニャちゃんとノイちゃん!」

「は、はい……はじめまして」

「……はじめまして」

「うわー、本当にちっちゃい。かわいいなー」

 ゴリラ人の人は、そう言いながら、二人に合わせてしゃがんでくれました。

「こんにちは。おれは、ローワン。よろしくね」

 りのふかい顔に、大きなひとみはきれいで、けど笑うとくしゃりとなって、とたんに人懐ひとなつこい印象いんしょうになります。

 し出された大きなこぶしに、自分のこぶしをちょんと当てて、

「よろしくおねがいします」

 マニャが言いました。

 ノイも小さなこぶしを(こちらは、ややいきおいをつけて)ローワンさんのこぶしに当てて、

「よろしくおねがいします」

 と言いました。

 ローワンさんは、さらに笑みをにっこりと深めました。

「あ、マニャちゃん! ノイちゃん!」

 ローワンさんの後ろから、声がします。

 ノイさんです。

「おつかい来てくれたんだね。ありがとねー。……あ、ケリさん、お久しぶりです」

 てててて、とやって来たノイさんは、今日も細い目をさらに細めて笑顔えがおでした。

「どうしたんです? 二人の付きそい?」

「ああ」

「へー! めずらしいね!」

 あっけらかんと言いはなつノイさんに、フンとケリさんは鼻をらしました。

「そっちの姉の方が、ひとりでここに来ようとして、道にまよってな。マグノーリエにさがしに行けって言われたんだよ。で、そっちのチビがついてきて、今にいたる」

「あらら。だいじょうぶだった?」

 ノイさんもかがんで、マニャの顔をのぞき込みます。

「えっと」

 マニャはずかしくてうつむきました。

「たいへんだった! けど、ぼくが見つけたから平気だよ!」

 ノイが、元気よく言ってマニャにきつきます。

「あそこにいたのは俺がれて行ったからだけどな」

 ケリさんが、ぼそりとつっこみました。

「そっかぁ。ノイちゃんはいつもお姉ちゃんまもってるもんね」

 ノイさんはそう言うと、ノイの頭をやさしくでました。

 え? とマニャがノイさんを見上げます。

「あれ? マニャちゃん、気づいてなかった? ノイちゃん、このあいだここに来たときも、ずっとマニャちゃんのそばからはなれないで、じーっと俺たちの一挙手一投足いっきょしゅいっとうそく……俺たちの行動を見てたんだよ。マニャちゃんに何かしようとしたら、すぐにびだしていけるように。足だって、いつでも飛びだせるかたちだったよ」

 マニャはびっくりして、ノイの方を見ました。

 ノイは「そうだよ」と言いたげに、不服ふふくそうな顔でマニャを見上げていました。

「そういえば、いつもそうだな」

 ケリさんも言いました。

「……気づかなかった」

「まあ、自分のうしろだと、なかなか気づかないよね」

「かと言って、前に出ると『いかにも守ってます!』って感じで相手に失礼しつれいだもんねぇ」

 いつのまにか、ひょこりあらわれたニソロさんが言いました。

「おわ! びっくりした。いつからいたの、ニソロくん」

 ローワンさんが言いました。

「え? さっきから。かくれてたの」

「何でそういうことするかな……」

「俺は気づいてたもんねー」

 きゃいきゃいと話しはじめた大人たちを尻目しりめに、マニャはノイをきしめて、

「……ありがとうね」

 もう一度、心をこめて言いました。

 ノイは満足まんぞくげに、ふす、と息をくとマニャを抱きしめ返しました。


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