第25話 それでも、めげずに


「おねえ!!」

 ドッと、むね衝撃しょうげきが走り、同時にふわりと温かさとやわらかさを感じました。

 つむった目を開けると、きついているふわふわの黒い頭……

「ノイちゃん!?」

 そう、ノイでした。

「もう、もう! ダメだよ、お姉。ぼくといっしょじゃなきゃ!」

 ぐりぐりと頭をしつけてくるノイに、マニャはびっくりしながらも、ついクセでその頭をなでます。

「ど、どうして?」

「……お前をっかけて来たんだよ」

 ガサガサとしげみがれて今度は、

「ケリさん……?」

 ケリさんが出てきました。

「え、え? 何で……?」

「お前とすれちがったって言ったら、マグノーリエのやつがな……」

 ケリさんいわく。

 マニャとすれちがったあと、ケリさんはマグノーさんのお家へ行ったそうです。

 そこで、マニャとすれちがったことを言うとマグノーさんは青ざめて、

『道、まちがえちゃってるじゃないか』

 と言って、ケリさんに事情じじょうを話しました。

 マニャは丘の上のお家に行くところなのだと。

「もし丘の上の家に行くなら、あそこは通らないんだ」

 そして、あの道を通って、丘の上の家を目指めざすと、この行き止まりにたどりいてしまうと、大人たちは知っていたのでした。

「だからマグノーリエは、俺にお前をむかえに行けって言ったんだよ」

 それでここまで来たのだ、とケリさんは、とても面倒めんどうくさそうな顔をして言いました。

「マグノーリエは、手がはなせなかったからな」

「す、すみません……」

 マニャは、ずかしいやらもうわけないやらで身をすくめました。

「……まあ、無事ぶじなら、いい」

 なく、ケリさんは言いました。

「でも、何で、ノイちゃんまで……?」

 マニャは、自分にひっしと抱きついているノイを見下ろしながら聞きました。

「そのチビが、マグノーリエの家まで来たからだよ」

 ノイは、マニャがびだした後。

 まどからその姿すがたを見て、「おや」と思ったそうです。

 あの道は、マグノーさんのお家へ行く道じゃないかしら、と。

 きっとお姉は勘違かんちがいをしたのだと気づきましたが、ケンカをしたばかりです。

 走って追いかけて「ちがうよ」と言うのは、何だかちょっとモヤモヤするというか、釈然しゃくぜんとしない気持ちです。

 けれど、このままマニャがまちがえるのをっておくのも、ちがう気がします。

 それはもっと、モヤモヤといやな気持ちになるのです。

 ノイはまよいました。

 迷って、部屋の中をうろうろして、窓の外を見て、またうろうろして……それを三回くり返してから、

 ええい!

 と思い切って、家を飛びだしたのです。

 そして、マグノーさんのお家へ着いたとき、マニャが道をまちがえたことを聞いて、ても立ってもられず、ケリさんについて、ここまで来たのでした。

「……ノイちゃん」

「ばか。お姉のばか」

 ぎゅうぅぅ。

 マニャに抱きつきながら、ノイがつぶやきました。

 その『ばか』は、ケンカしたときの『ばか』とは、ちがうひびきをしていました。

 もっとやわらかくて、きずつきやすい音でした。

 ぐす、と泣き声がじっているからでしょうか。

「……そいつは、ずっと俺の後ろを走って追いかけてたぞ」

 ケリさんは、ノイがついてきているからと言って特別とくべつゆっくり歩いたりはしませんでした。

 はぐれないように気をつけてはいましたが、それでも大人の足のはやさでは、ノイは走って追いかけないといけませんでした。

「それでも、めげずにここまで来た」

 それだけノイが、マニャを心配しんぱいしていたから。

 言葉の外の『言葉』に気づいて、マニャの鼻のおくがツンとなりました。

 じわりと目があつくなります。

「……ありがと、ノイちゃん」

 マニャも、ノイをぎゅうと強く抱きしめました。

 ノイの温もりは、これ以上ないくらい、安心する温度でした。


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