第17話 ガラスドームとマドレーヌ


「わあ……」

「ね、きれいでしょ?」

 場所ばしょを、いちばんてっぺんのガラスのドームにうつしました。

 ドームからは、森を見わたすことが出来ました。

 葉っぱの色が変わりつつある、秋の森。

 い緑に、赤や黄色がじっています。

 の光が、まるでやわらかなしゃぬののようにきらめいています。

まどけようね」

 クラムさんが、ガラスドームの一部をパカリと外側にひらきました。

 すると、さわさわとすずやかな秋の風が入って来ました。

 あまい落ち葉のにおいがします。

 空はどこまできとおって青く、このドームですわっていると、まるで自分が空の一部になったように思えました。

「……」

 ノイの可愛かわいい大きなお耳が、ぴくぴくとうごきます。ピンクのおはなも、ひくひくと動いて、めいっぱい秋のにおいをかいでいます。

 マニャも、お鼻をひくひくと動かして、秋の匂いを味わいました。

 そこに、ふわりとかおべつの甘い匂い。

 そう、マドレーヌの香りです。

「さ、食べよう!」

 ゆかかれたおおきなクッションにそれぞれこしかけると、真ん中に置いたバスケットから、出来立てのマドレーヌをみんな手にとりました。

えんりょしないで食べてね」

 にっこりとクラムさんが微笑ほほえんで言いました。

「そうそう。クラムくんのお菓子かし、すっげぇおいしいから食べて食べて!」

「あ、やけどしないように、ふーふーしてからね」

 ニソロさんとノイさんも、にこにこわらっています。

 こちらはすでにマドレーヌのをほおばっていました。

「い、いただきます」

「いただきます」

 二人も、パクッとマドレーヌにかぶりついて、

「!」

「おいしい!」

 ぱああ、と目をかがやかせました。

 黒目が、くるんと大きくなります。

 マドレーヌの表面、きつね色のところはカリカリで、けれど中はふかふかでした。めば噛むほど、やさしい甘さがふんわり口の中に広がります。

「よかった」

「たんと食べなね」

 しばらくは、二人が夢中むちゅうで食べているのを見ていた三人でしたが、二人が一個目を食べ終わり、おずおずと二個目に手を伸ばしたところで、話を切り出しました。

「ところで、マニャちゃんとノイちゃんは、マグノーさんのおつかいで来たと言っていたけれど」

「はい」

 二人は、あのあとすぐに自己じこしょうかいをしました。

 ノイさんは、ノイが自分と同じ名前だと知ると、とてもうれしそうに細い目をさらに細めて「そっかそっかー!」と言いました。

 それから、そっとノイの頭をなでました。

 ノイは最初さいしょびっくりした顔をしましたが、あまりにやさしいなで方だったので、悪くはなかったのでしょう。

 いやがることはしませんでした。

 ノイさんは今も、マドレーヌをほおばるノイを優しいかおで見つめています。

 ちなみにノイさんは、やっぱりヤモリ人ではありませんでした。

 モモリ人という、ちょっと変わった種族しゅぞくでした。

おれの一族、とおーい南の島出身なのよ。だから、知らなくても仕方ないよ」

 とのことでした。

「そのたのみごとって、もとはマハルさんやシンさんとも関係かんけいある?」

 マニャは、自己しょうかいの時に、お父さんとお母さんのことも言いました。

「はい。えっと、実は……」

 マニャが、たどたどしく最初さいしょから説明せつめいするのを、三人はせかすことなく聞いていました。

 つまってもおこることなく、「お茶飲む?」「ちょっとマドレーヌ食べて休けいする?」と聞いてくれました。

 だから、マニャの緊張きんちょうは、すっかりとけて、最後の方は、マドレーヌを食べるあいまにお話する、という状態じょうたいになっていました。

「なので、えっと」

 けれど、きちんとおねがいするときには、マドレーヌを飲み込み、背筋せすじばしました。

 横で、ノイもあわててマドレーヌを飲み込むと、同じようにシャンと背筋を伸ばします。

「どうか、ジャーダさんの衣しょうも、いっしょに持っていって下さい。おねがいします」

「おねがいします」

 そして、二人同時にぺこりと頭を下げました。


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