第23話 マグノーリエさんからお菓子をもらう(ケリさんとすれちがう)


「……あ」

「……おはよう、どうしたの?」

 マニャは、マグノーリエさんを前にして、思い出しました。

 今日のおつかいは、まず丘の上のお家に行かなくてはいけなかったのです。

マグノーさんにわた銀細工ぎんざいくを受け取り、それらをここに運ぶ、というおつかいなのでした。

「ごめんなさい、まちがえました……先に丘の上のお家でした……」

 せめて、ノックする前に気づけばよかったのに。

 マニャは、一分ほど前の自分をうらめしく思いました。

「まあ、いいけど。丘の上が先ってことは、ぼくへの荷物にもつをたのまれたってことかな?」

「はい。えっと、ノイさんの銀細工の……」

「もう出来たんだ。相変あいかわらず仕事が早いなあ」

 ノイさんの名前を聞いて思い出したのでしょう。

「そういえば、今日はノイくんは?」

 マグノーさんが、マニャの後ろやとなりを見て言いました。

 マニャは、うっ、とつまったあと、

「今日は、私ひとりです……」

 ときまりわるげに言いました。

「ふぅん……」

 マグノーさんは、とくにふかく聞いてくることなく、首をかしげるだけでした。

「それじゃあ……」

「あ。ちょっと待ってて」

 そう言って、マグノーさんは一度奥おくへと引っ込みました。

 そしてすぐに何かが入ったふくろって出てきました。

「はい、これ。途中とちゅうでつかれたら食べなよ」

 袋の中身は、昨日も食べたガレットと、小瓶こびんでした。小瓶に入っている液体えきたいは、むらさき色で、おそらくナナブド(みなさんの世界での、ぶどうとよく似たくだものです)のジュースでしょう。

「ありがとうございます」

「気をつけてね」

 ぺこりとお礼をして、マグノーさんのお家を後にしました。

 袋の中には、美味しそうなガレットとジュース。

 少し心がうきうきしましたが、「どっちもノイちゃんが好きそうだなあ」と思うと、とたんに一人であることがつまらなく、心細い気持ちになってきました。

(……いいのっ。今日は私一人で行くの!)

 ふるふると首を横へふって、へたんとれそうな耳を一生けんめい、ピンッと立てます。

「さっさと走って行こう。そうしよう!」

 出来れば、昨日の三人組だけがいるといいなあと思いながら、マニャはけだしました。

 とちゅう、ケリさんとすれちがいました。

 いきおいのまま行きたかったので、

「こんにちはっ!」

 とあいさつだけして、そのまま走りぬけました。

失礼しつれいだったかな?)

 少し心配しんぱいになりましたが、それでもマニャは、足をゆるめず、ダダダッとけていきます。

 うしろで、ケリさんが何か言いたげな顔をしていることには、もちろん気づきませんでした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る