第10話 ディリノーさんの勘


「あれ? 一枚いちまい、多い……」

 ディリノーさんがってきてくれたぬのと、マグノーさんの注文書控ちゅうもんしょひかえのメモは、数が合いません。

 メモには、だいだい色の布が一枚、さくら色の布が三枚、と書いてあります。

 けれど、ディリノーさんが持ってきた布は五枚で、メモに無いみどり色の布がえていました。

 どの布もうつくしく、ハッと息をのむほどにあざやかで、けれどふんわりとやわらかな色合いでしたが、その翠の布は、さらに鮮やかでうつくしく、やさしい色合いの布でした。

 いつだったか、図鑑ずかんで見たきれいなエメラルドグリーンの宝石みたいだとマニャとノイは思いました。

「これは、おまけです」

「おまけ?」

「はい。めずらしい染料せんりょうが手に入ったので、ためしにめてみたら、こんなにもうつくしい色になりました。これをどうしようかとなやんでいたのですけれど、お二人のお話を聞いて、ピンと来たのです」

 ディリノーさんが、にっこりほほ笑みます。

「ああきっと、マグノーさんにおわたしするのがいいのだろうなあって」

 だから、これも持っていってくださいネ。

 ディリノーさんはそう言って、ふくろにその布も一緒いっしょに入れました。

かえり方……マグノーさんの家までは、わかりますか?」

「はい。だいじょうぶだと思います」

 マニャがうなずきました。

「すみません。お送りしたいのですが、お二人と話していて、布のことだけでなく、絵の方でもビビッと来るものがあったのです。それを今、形にしたいのです」

 たしかにディリノーさんは、先ほどからうずうずとつばさの先を動かしていました。よほど、絵筆えふでをとりたいのでしょう。

 マニャとノイは、二人だけでマグノーさんの家までもどることにしました。

 もともと、二人きりの方が気楽だと思っているので、むしろ少しだけ、ホッとしているのでした。

 ディリノーさんは、玄関げんかんを出て、森の入り口まで送ってくれました。

 ノイは、今度はマニャの後ろではなく、ぴったりと横について、ディリノーさんを見上げています。

「きっとね、今日のお二人の行動こうどうが、もっと良いことをはこぶのだと思いますよ」

「はあ……」

「まあ、ただのカンですけどネ」

 ディリノーさんは、そう言うと片目をつむりました。

 二人が森に入ってしばらくすると、ぽんぽんっという、花火を打ち上げた音を小さくしたような音がしました。

 何だろう、と顔を見合わせながら、二人は元来た道をもどっていきました。


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