第11話 花火の音、その意味は

「おつかれさま。入って」

 マグノーリエさんのお家にもどってきました。

 マグノーさんは二人をむかえ入れると、スタスタと作業台さぎょうだいの方へ歩いていってしまいます。

 先ほどまで陽気ようきなディリノーさんといたので、二人は何だかかたすかしを食らったようにぽかんとしました。

(やっぱり、マグノーさんはぶあいそうだなぁ)

 と二人はしみじみ思いました。

「ここに出してもらえるかな」

 作業台にいてあったものをわきによけながら、マグノーさんが言います。

 二人はうなずき合うと、協力きょうりょくして受けとったぬのを出していきます。

 ノイがふくろの入り口を広げておいて、マニャが布を出して、そっと作業台に置きました。

 マグノーさんは、出された布をかたっぱしから広げて確認かくにんしていきます。

「うん。あいかわらず、いい色だなあ。ほれぼれしちゃうよ」

 マグノーさんが、あつい声音で言いました。

それは、まるでおいしいものを食べたときに、思わず出てしまうため息のようでした。

 そう思う、と二人もこっそりうなずきます。

「あと、もう一枚いちまい……」

「あれ? たのんだのはこれだけだったと思うんだけど……」

「そうなんですけど……おまけだって、ディリノーさんは言ってました」

 マグノーさんは首をかしげながら、マニャが取りだした布を手に取りました。

 とたん、

「わぁ……っ」

 と声を上げ、かたまってしまいます。

 そしてそのひとみが、キラキラとかがやきました。

 わらっているみたいに……いいえ、じっさい微笑ほほえんでいるのでしょう、かすかに目が細められました。

「すてきだよ。すばらしい。なんて、すてきな布なんだろう!」

 歌うように、マグノーさんが言います。

 マグノーさんの手の中で、みどりの布はいっそう、うつくしくかがやいて見えました。

「ちょうどね、あのワンピースに新しい布をあしらいたいって思ってたところだったんだ」

 マグノーさんが、視線しせんを上げました。

 彼女の視線の先には、トルソーにせたあのジャーダさんのワンピースがあります。

 まだ破れやほつれはのこっていますが、それでも先ほどよりもきれいになっています。

「すごい」

 ノイが、ぽつりと言いました。

「つくろっているときにね、ピンと来たんだ。『ああ、ここに翠の布があったら、もっときれいになるだろうなぁ』って」

 マグノーさんは、ぴょんぴょんとかるい足取りでワンピースのところへ、布を持っていきます。

 そして布を当てると「やっぱり!」ととてもはずんだうれしそうな声で言いました。

「イメージ通りだ。すごい、すごいな。まるで、あつらえたみたい。まるで、元からたのんであったみたいだ!」

 興奮こうふんしているマグノーさんは、まだあどけない少女みたいでした。

 二人は、そんなマグノーさんをふしぎそうにながめます。

「んんっ。ありがとう、君たちのおかげだよ」

 そんな二人の視線に気づいて、マグノーさんは照れてせきばらいをしました。

 けれどそのあと、はにかんでお礼を言う顔は、やっぱり少し、先ほどの少女の面影おもかげが、ありました。

 どんなにしずかで無愛想ぶあいそうな人でも、こうしてドキドキしたりわくわくしたりすることがあるんだ、と二人は新鮮しんせんな気持ちになりました。

「えっと……」

「どう、いたしまして……?」

「今日はもうおそいから、のこりのおつかいは、明日あしたからにしようか」

 そう言って、マグノーさんは、明日の朝十時ごろ、またここへ来るようにと言いました。

 二人はうなずいて、お家へかえることにしました。

「そういえば」

 マニャがふと、玄関げんかんを出るときに言いました。

「ディリノーさんのところから戻るとき、後ろでポンポンッてっていたのは何だったんでしょう……?」

 聞く気は無かったのですが、思いうかんだのでつい口にしたのでした。

 マグノーさんは、ちょい、と首をかしげたあと、ああ、と言いました。

「それはたぶん、花火で知らせたんだろうね」

「知らせ……?」

「そう。ケリに『無事ぶじにお話がおわりましたよ。ふたりは池に落ちることもなく、ちゃんと森に入っていきましたよ』っていうお知らせ」

 何だかんだ、心配しんぱいしてるだろうからね、とマグノーさんは何でもないことのように言いました。

 そういえば前に、二人もお父さんから聞いたことがあります。

 森のひとに何かをいそぎで知らせるときは、ふえを吹くと。

 一回だけするどく吹く。それは、「たすけて」とか「まずいぞ」という意味。

 二回吹くと、「だいじょうぶ」「安心してくれ」という意味。

 そのことをマグノーさんに言うと「そうそれ。それと同じ」とうなずきました。

ぼくも笛を吹かなきゃ。二人とも、気にしているだろうからね」

 そう言って、マグノーさんは、ポケットから白く細長い笛を取り出すと、ぽー、ぽーと大きくらしました。

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