第29話 もうすぐ、春が


 それから二人の日常にちじょうは、前と同じようにぎていきました。

 お家の中で、あるいはお家のまわりで。

 二人きり、のんびりおだやかにごす毎日です。

 あれからしばらくして、お父さんとお母さんからお手紙がとどきました。

 速達そくたつで、「ありがとう」と何回も書いたお手紙でした。

「おどろいた」「うれしかった」「ジャーダさんもとってもよろこんでくれたよ」

 お父さんお母さんのお手紙をんで、マニャとノイはホッとしました。

 あのワンピースは、無事ぶじにとどいたのです。

 そして、ジャーダさんを喜ばせることに成功せいこうしたのです。

 これで、すべてが安心でした。

 クラムさんやノイさんたち、ファオス舞踏団ぶとうだんの六人からは、絵はがきがとどきました。

 ステージは大成功だいせいこう

 おまつりを楽しんでることが、書かれていました。

「良かったね」

「良かった」


 それからさらに一ヶ月ほどして、そろそろ冬の気配けはいが立ち込めるころ、お父さんとお母さんはかえってきました。

 二人は大喜びで、お父さんお母さんにきつきました。

 暖炉だんろの前で、たくさん、お祭りのお話を聞きました。

 ジャーダさんから、二人へのお礼の手紙も何度も読みました。

 お父さんお母さんも、二人のささやかな冒険ぼうけんの話を何度も聞きたがりました。

 いつもと同じ。

 家族いっしょに、お家の中で過ごす冬。


 けれど、今年はほんの少しだけ、ちがいました。


 たまにマグノーリエさんやディリノーさんがお家に来たとき。

 以前いぜんだったら、玄関先げんかんさきで誰かの声がするだけで、おくの部屋にげていた二人が、あいさつにひょっこり顔を出すようになったのです。

 と言っても、本当にあいさつだけで、おしゃべりをすることは少ないのですけれど。

 それでも、お父さんとお母さんはうれしそうでした。


 そうして、雪解ゆきどけのころ。


「お久しぶり! ちょっと早めにかえってきたよ!」


 マレーアさんが帰って来ました。

 手には、おみやげと一緒いっしょに四通のお手紙。


 それは、招待状しょうたいじょうです。


 マハルさんシンさん。

 そして、マニャとノイに。


 ファオス舞踏団の六人もまた、この森に近々帰って来るそうです。

 その帰還きかんのコンサートを、丘の上のお家でひらくのだとか。


「いつも恒例こうれいのやつね」

「マニャとノイも、今年は行くかい?」


 マニャとノイは、顔を見合わせました。

 それから。


「行く!」


 と二人同時に言いました。




 トットコ森に、もうじき春がやって来ます。




 おしまい

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トットコ森のマニャとノイ 飛鳥井 作太 @cr_joker

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