第3話 スターキャット

「さてと…」


 スターキャット。身体中に星のマークが付いている。

 この王都の大きさは半径約10キロ。レンガの建物が乱立し、北の方には大きな王城が立っている。


 つまり、大体王都の4分の3をしらみ潰しに探せば必ず見つかると言う訳だ。

 …でも、この人だかりを避けて探すには時間がかかり過ぎるな。


 ゼルは路地裏に行くと、周りに人がいない事を確認して、両側の壁を三角跳びの要領で屋根へと上がる。


 そして、目を閉じる。


 集中しろ…


「…鷹の目!」


 視界が上空へと上がり、周りを俯瞰する。距離にして500メートル。

 店で野菜を売っているおばちゃん、武具の手入れをしている冒険者、犬と戯れている女の子、180度前方全てを見渡す。


(此処ら一帯は居ないな…次だ)


 屋根から屋根へと、物音を立てずに移動する。そしてそこから東、南の順番で見て行った。


 最後は西だ。此処に居なかったらどうしようか。


 そんな事を考えている時、俯瞰の先、およそ200メートル先の路地裏でゴミ箱に頭を突っ込み漁っている星柄の猫が1匹。


 居た!


 急いで屋根を伝い、スターキャットの真上の屋根まで行くと、飛び降りる。


 ガサゴソ


 まだスターキャットはゴミ箱に夢中の様子だ。このまま行けるか?


 ゼルはスターキャットの数センチまで近づく。すると、


「シャッ!!」

「っと…!」


 それに気付き逃げ出そうとした、スターキャットの首根っこを捕まえる。


「ンニャッ!?」


 スターキャットは暴れて、歯や爪を剥き出している。


 ……あれ? これで終わり?


 エリナさんが言うには星が流れる様に地上を駆けると言ってたが、どうやらデマだったらしい。これだと断然星の方が早いだろう。

 先程逃げる時、一瞬光の様な物を発光させてた事から、そう言われていたのかもしれないな。


 そんな考察をしながらも、先程までの自分の動きの反省をしている日がもう少しで沈む事に気づく。


「あっ、急がないと」


 ゼルは屋根の上を伝い、急いでギルドを目指した。



 *


 夕方、ギルドは冒険者専用の酒場へと変貌する。勿論、冒険者ギルドとしての仕事も受け付けているが山場を超えたら後はゆっくりな時間を受付嬢は過ごす。


「…あの黒髪の子供どうしてますかね?」


 私は隣人に聞こえそうな声でボソッと呟く。

 あの依頼を出したんです。依頼を遂行出来る筈がありません。


 何よりあの依頼は"アルベイル王直々の依頼"。そう簡単に出来てしまっても私達が困りますけど…少し心配です。もしかしたら無理をしてあれからずっと探し続けているのではないかと思うと、罪悪感が半端ないです。


「うーん。やる気はあるみたいだったし、まだ探してるに1票」


 確かに。ミラの言うやる気はとてもありました。だからこそ心配というか…。


「私は意外と上手くやっているに1票、ですわね」


 ゼシカが主張の大きな胸を張り出しながら言う。

 いつもなら「無理に決まってますわね」とか言いそうなのに、こんな事を言うとは…


「どうしてそう思ったのですか?」


 私は思わずゼシカに聞いてしまいました。何故聞いてしまったのかは分からない。ですけど異様に気になってしまったのです。


「女の勘がそう言ってるだけですけど、何か?」


 何故かゼシカの答えに、自然と心の中がモヤモヤする。それと同時に少しの嬉しさ。


 もしかして…私も心の中では少し期待しているの?


 ギィ


 ギルドの扉が開かれる。新しい冒険者が入ってきた。3人は姿勢を正す。


「「「え…」」」


 そこに居たのは、


「捕まえました。スターキャット」


 腕に星柄の猫を抱えている黒髪の少年が居た。



 *


「あの…?」


 入るまで賑わっていたギルドの中が、何故がシンっと静まり返る。周りを見渡すと、何故か此方を凝視している。


 そうか…ゴルドフさんから聞いた事がある…。新しいギルド先に行くとよくあるのが、新人イビリ!!

 冒険者になったばかりの者を調子に乗らせない様に、先輩が暴行を加えるという…あの…。


 ゼルはナメれないよう背筋を伸ばし、スターキャットを抱えたままカウンターへと向かう。


「はい。これが試験内容のスターキャットですよね? 確認お願いします」

「…」


 …何故か返事がない。


「あの…」

「エ、エリナさん!?」


 色気のあるお姉さんがエリナさんを揺らす。


「はっ!? す、すみません。えっと…スターキャットの確認ですね、はい。あの、はい」


 返事をすると、スターキャットを受け取り、カウンターの奥へとエリナさんは消えて行った。


「おい、ありゃ本物だぜ」

「あぁ。アイツを捕まえる奴が現れるなんてな…」

「おいおい、ただのガキだろ? 餌付けでもしたんじゃねぇか?」


 周りのテーブルでは何かとある事ない事言われているが、気にしない。

 ゴルドフさんが言うには、この時は手を出さないのが吉らしい。理由は相手が可哀想だとか言って、意味が分からなかったが、まずやめとけと言う話だった。まぁ、ゴルドフさんの言う事に間違いはないだろう。


 周りからの話を聞き流し、数分。


「…お待たせしました。依頼内容であるスターキャットであると確認致しました」

「よし!」


 これで試験合格だよな! これから冒険者として大金を稼いで村の皆んなを幸せに


「すみません。今お時間は宜しいでしょうか?」

「はい? 大丈夫ですけど…」

「…ギルドマスターがお呼びです」


 エリナさんは奥へと誘導する様に、カウンター横にあるドアを上げた。

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