第42話 地面の下は

 トマスとキメラを倒してから数分後、俺達は怪物の足下まで来ていた。


「とりあえずは様子見、ですかね?」

「そうだな…彼方から攻撃してこない限りはその方が賢明だ」


 トマスの問いかけに、俺は小さく頷く。

 俺達の目の前には黒い煙の様な物を纏った、軽く王城並みの大きさがある怪物が鎮座している。しかし、俺達が近付いても動かずにいた。


「それよりも、これだ」


 俺はその怪物の丁度足下の地面を指差す。


「? なんですか?」

「俺が以前見つけた不自然な地面だ」


 そこにはこの前見つけた『絶視』で嫌なドス黒い色を発していた地面があった。


「不自然、ですか?」


 トマスはそれに首を傾げる。


 一見はただの地面。

 しかし、ここからは不穏な空気が流れ出ている。その上にはどでかい怪物が居る…何かない訳がない。


「……理由は話せないが、何かある事は確実だ」


 俺は少し申し訳なさを感じながらも、そう告げる。


 俺の『絶視』は、いわば切り札と言っても過言ではないもの。しかも使えば、その後に影響があり過ぎるものだ。


 此処で『絶視』をやったとしても、この地面が不自然という証明にはならないだろうしな。


「ならこれからどうしますか?」

「…ハッキリ言ってそれはお前次第だな」

「私次第と言うと?」

「時間は掛かるが安全で慎重な方か、時間が掛からないが大胆で危険な方か、どちらが良い? 因みに俺のオススメは前者だが」


 そう言うと、トマスは真剣な眼差しで此方を見つめながら言った。


「私は自分の命よりも、お嬢様の命が大事です」

「…はぁ、だよな」


 予想はついてた。


 俺は呆れながらもそこに手を着いた。



 *


「ふぅ…それで? アイツの消息は不明と?」

「あぁ、スラム街が陥没してから騎士団を使い探索させた。だが怪しい者を発見した者は居らず、それに加えて死者も居ない。あるのは実験体達の死体のみだそうだ」


 少し暗めの部屋、2人の男が話し合う。


 1人は容姿が分からず、ローブを着た男。

 1人は位の高そうな衣服を身に纏った男。


「ギラス、お前の親はどの様な話で進めている? その話によっては此方の計画も変えずにはいられないぞ。もう『ゼロ』は地上に出ているのだぞ」

「それは俺でも分かっている。その為に最近はあの脳筋親父のご機嫌伺う為に剣を振ってたんだ。感謝しろ」


 男は偉そうに肩をすくめる。


「早く言え」

「…っ、分かってるよ…親父はこれまで通り王都周りの魔物の討伐遠征を進めようとしている。このままだと収集もままならない上、国としても…俺達にしても不味い事になるだろう」

「…その対策は?」

「い、いや…その…」

「…」


 ローブの男からの冷ややかな視線にギラスは、耐えきれずに口を開く。


「だ、だが、最近は討伐遠征よりも気になっている事があるみたいだ! 今は討伐遠征よりもそちらに力を入れている節がある!」

「それは?」

「何でもある子供にご執心らしくてな…調べてみた所、その子供は10歳にも満たないような子供の見た目をした黒髪のーー」



 ドゴォッ



「「!!」」


 突然床が揺れ動くいたのを感じる。



 ドゴォォッ



「な、何だ!?」

「『ゼロ』が動き始めたか…? だが近づいて来ているかの様な音…」


 次は先程よりも大きく揺れ動いた気が…



 ドゴォォォォッ



 それから数秒時間が空いて、天井にヒビが入ってる事に気づいた時にはもう遅かった。


「グッ」

「な、何だ!!?」



 ガラガラガラッ



 上から瓦礫が落ち、2人は間一髪のところでそれを避け、一点を見つめる。



「これまた変な所に出たものですね」


 瓦礫の上、そこには老齢な執事が佇んでいた。



 *


「じゃあ、逃げてもいいからな」


 地面に手を置いて『発勁』をしている途中、ゼルが徐ろにそんなことを言う。


「はい?」


 それに思わず首を傾げる。

 それと同時にぐらいに、立っていた地面が突然割れ、下降して行くのに驚くが、一瞬にして冷静さを取り戻し、華麗に瓦礫に着地する。そして上から冷静に辺りを見回した。


 そこには警戒して此方を見ている2人の人物があった。


「…何の用だ」


 如何にも怪しげな男の問い掛けに、トマスの眉間に深く皺が寄る。


 隣には位が高そうな、高級そうな衣服を着た男性。

 辺りは怪しいと言わんばかりに、生活感が皆無の部屋。


「少々人を探しておりましてね、お邪魔させて頂きます」


 相手に余裕を持ちながら、接して動揺を見せない。戦闘であれば常識。


「天井から来るなんて随分礼儀がなってないな」

「私達も入り口から来たかったのですが、どうしても入り口が見つからず、強硬手段を取るしかなかったのです。ご了承を」


 表情を崩さず、執事モードで対応する。


 この後はどうするかと、ゼルの方に視線を送る。




 そしてーー




「ぜ、ゼル様?」


 隣に居ないゼルに、トマスは大いに動揺するのであった。

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