第41話 それぞれの思惑
*
「ふふふふふ…何て素晴らしいんだ…」
黒ローブの男が森の中に鎮座する黒い物体を見て怪しく微笑む。
収集所が崩壊して1日、王国にバレたかと思ったが、そうではなく、誰かが個人で崩落させたらしい。
あの貴族が何かやらかしたのかと、背中をヒヤヒヤさせ、コイツを急いで作った。
「だけどこれは最高だっ…!! 僕の今までをつぎ込んだと言っても過言じゃない!!」
男は大きく手を広げ、その黒い物体を見上げて言った。
*
「…どうする」
ゼルは森の奥にいる何かを見つめながら、問い掛けた。
「そんなの愚問ですね。戻ってこられたなら、付き合って貰いますよ。それに…」
それにトマスが穏やかな表情で、ゼルを見つめる。
「…何だ」
「私が思っていた以上に貴方は優しい」
「…」
「此処で貴方は私を見捨てる様な事はしないでしょう?」
トマスは何処か得意気に笑った。
ゼルはこういう反応をして来る奴は、苦手だった。自分では無駄がない様、危険を冒さない様に生きて来たつもりだ。その過程で、何かを見捨てた事も多々ある。
そんな過去も知らずに、自分を知っているかの様な立ち振る舞いには、少し腹立たしい物があるし、何より、裏があるのではと疑ってしまう。
もしもこれが信用ではなく、信用させようと演技をする為の言葉なのではないかと…。
「…いや、言っておくが、自分が危険だと思ったら俺は直ぐにでも逃げ出す」
そう返すと、トマスは。
「と言う事は、限界までは手を貸してくれると言う事ですよね?」
と、間を空けずに笑顔で話す。
ゼルはトマスを眉を顰めながら見つめ返した後、大きく溜息を吐いて頭を掻いた。
「…アイツが動く前に早く行こう」
「はい」
トマスは笑顔を絶やさず、ゼルは少し顔中に皺を作り、何処か苦しそうに森の奥へと進んで行った。
*
ゼル達が2体のキメラを戦っていた頃。王都ではいつもの賑わい以上な、騒ぎ、いや阿鼻叫喚が起きていた。
「な、何だよアレ!!?」
「に、逃げろ!!」
「うえぇぇぇぇぇん!!? ママ〜ッ!!」
「お、落ち着いて下さい! 落ち着いて!」
「早く店閉めろ! 全部商品が潰されちまう!!」
多くの住民、店員、騎士が入り乱れた光景の中、王都の建物の屋根に居る2人は、遠くに居る化け物を細めで見つめる。
「…アレはやばいな」
「っと、あぁ、下手したらドラゴンの群れの方が良いな。ったく…女の子を泣かせるなんて許せねぇ…」
私が言った一言に、泣いていた迷子の女の子を助けて来たセンが言う。
「…見た目では状態異常か何かもありそうですね」
「最近何故魔物の動きが活発だったのか…それにはアレが関わってるな」
2人も何処か納得している様子だ。間違いない。前に倒した氷土竜も、普段なら群れで何か出て来ない魔物だ。アレに生息地を追われたか、それか意図的に誰かが操作していのかの、2つだろう。どちらにしろ面倒だ。
「ユウ、探知の方はどうだ? 救助者が居たら俺が速攻で助けに行くけど」
ユウには王都の外の探知を行わせ、救助が必要な者を探していた。そんな時。
「アマンダ、セン…! アレの近くにゼルさんが居ます!」
「何ぃ!!?」
「…やっぱりゼルは何か隠してたって事か? いや……今はアイツは捕獲する事が優先か…」
「…この状況で王都の外にいる時点で、この事と何かしら関わっているとは思いますけど…」
2人の表情が暗い。気持ちは分かる。小さな子をわざわざ捕獲する依頼など受けなくない。だけど…。
「…これは貴族からの依頼だ。受けないといけない」
「…はい」
「…分かってるわ、そんぐらい。とりあえずは早くゼルの所に行けばいいんだろ?」
「あぁ」
3人は屋根を駆け出した。
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