第40話 猿と蛇

「はぁっ!!」


 ゼルは腰に携えた剣を大蛇の頭目掛けて、上から下へ大きく振り下ろす。


「シャアッ」


 大蛇はそれを素早い動きで横に避けると、ゼルの胴体目掛けて口を開いて迫ったが、それをゼルは難無く躱す。


(体格の割には速いな)


 流石に大胆な攻撃過ぎたかもしれないが、この大きさで避けられるとは思っていなかったゼルは少し驚く。


 そしてゼルは冷静に大蛇の分析を始める。

 体長は推定30メートル。太さは木を5本合わせてやっと同じぐらいの太さぐらいだろうか。


 普通の大蛇よりも断然大きいその姿からは有り得ないスピード。


 それが木の間を縫って迫ってくる。


「っと!」


 背後からの視覚外の攻撃にも、音と気配で気づき前転しながら避ける。


 そして起き上がると、大蛇はゼルとトマスが分担される様に位置取った。

 その大蛇はトマスの背後を警戒していない様子から、トマスの方を向いていた。


(これだとトマスが挟まれる形だ。それまマズイ)


 そう思ったゼルの行動は早かった。


 弓で大蛇の片目に射て、大蛇の気を引くことに成功させる。


「こっちだ!!」


 またトマスに、2匹もの魔物に囲まれるのは避けたい。猪の魔物に手こずっていたんだ。

 この大型の魔物をさっさと倒して助けにいかないと…。


「おら! どうした!!」


 声を荒げて、大蛇を挑発しながら走り出す。


 大蛇の後ろでは猿の魔物と善戦を繰り広げているトマスの姿があった。


(…あっちは大丈夫そうだな)


 後ろ目で見た限り、トマスはあの猿に負ける事はない様な立ち回りをしていた。

 どうやらトマスの強さは人型のみ強さを発揮する様だ。


「だけど、倒す手もないって所だな」


 上手く猿の魔物の攻撃をいなしてはいるが、素手故だろうか、攻撃を行えていない。


「シャ〜〜ッ!!」


 そんな考えをしていると、大蛇が大きく口を開けて後ろから迫る。

 それを、横にある木に飛び移って避ける。


 すると。


 シュウゥゥゥゥゥ…


 大蛇の抉った地面から白い煙を上がり、爛れている様に見える。


(毒、か。厄介だな)


 地面が爛れるのが遠目から分かるとなれば相当の毒。

 安易に近づく事は出来ない。


「うおっと!」


 大蛇は直ぐに此方に向き直ると、口からドス黒い液体を吐き出す。

 それを間一髪、隣の木に飛び移って避ける。


 シュウゥゥゥゥゥ…バキバキバキッ


 吐き出された液体は木をあっという間に溶かすと、さっき程まで居た木の枝付近がバキバキに折れる。


(毒を吐き出す事も出来る、と)


 これなら圧倒的に遠距離攻撃有効。


 しかし、だからと言って弓を使う訳にもいかない。

 矢にも本数と言う物がある。

 今矢筒に入ってる矢は2本。


 最近矢を使う事が多いのに、圧倒的に補充が出来ていない。

 下手に打ち損じる事は出来ない。


「シャアッ!!」


 だからと言って大蛇からの攻撃が止むわけでもない。


「此処で戸惑ってても仕方がないな…」


 ゼルは弓を手に取る。

 それと同時に大蛇の攻撃が迫り、木から飛び降りて避ける。


 蛇には目と鼻の間にピット器官と言う感覚器官が存在する。それは熱を探知し、生物を発見すると言う人間よりもとても優れた器官が存在する。


 しかし、その器官には小さな細い血管、神経が張り巡らせていると言う。


「フッ!!」


 ドスッ


「じ、ジャアァァァァァ〜ッ!!」


 大蛇からぐぐもった悲鳴の様な声が、森の中に響き渡る。

 大蛇は気を狂わせたかの様に森を暴れ回る。


「こっちは元狩人だ。蛇の生体ぐらい分かる」


 ゼルは腰に携えていた剣を抜く。


 シャッ


「神経が集まった所を攻撃したんだ。尋常じゃない痛みだろう、誰であってもまともに思考出来ない」


 そう言うと、ゼルは正気を失った大蛇の首を剣で刈り取った。

 大蛇の首からは大量に紫色の血が溢れ出る。


「キメラか…何の魔物とかは分からなかったな」


 ゼルは少し不思議そうに大蛇を見た後、踵を返す。


(今はそれよりも猿の魔物を倒さないと)


 トマスの方が心配になり、スピードを早める。




「ん?」


 トマスの元へ着くと、そこには地面に膝をつけながら苛立ちを隠せないといった風な猿の魔物と、それを余裕そうに躱しているトマスの姿があった。


「…何だ。もう終わりか」


 そう呟いた瞬間。


「フッ!!!」


 トマスの口から大きく息が吐かれる。

 そしてそれと同時に猿の魔物から吐血される。


 発勁…。猿が此方に気を逸らしたその一瞬の隙をついて、懐に入り込み猿の胸へと手を置いた。


 とんだ早業だったな。


「ふぅー…もっと早く来てくれても良かったんじゃないですか?」

「いや、倒してるんだから来なくてもよかったろ」

「いえ、結局は貴方が来てくれたお陰で隙が出来たのですから…それよりも…」

「…あぁ」


 2人は森の更に奥を見上げる。


「…探しに行くんだよな?」

「勿論です」

「…了解」


 2人は走った。


 森の奥からは、ゼルの絶視を使わずともドス黒い煙に覆われたが鎮座していた。

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