第43話 サーラとの再会

「ふぅ」


 地面が崩落した後、俺は下に誰かが居るのに気付き、トマスに任せて部屋の奥へと進んでいた。


 部屋の扉から出ると、そこは洞穴の様な所をした通路だった。


 通路の奥は真っ暗で、何か変な鳴き声が聞こえて来る。


 どこか背筋が震える様なそんな声だ。


「ここは…」


 そんな時、近くに扉があるのが分かり、足を止める。


 幸い人の気配はない様で、ゼルは少し警戒を解きながら中の様子を伺う。


 あれは…



 ◇


「はぁ、もう限界…」


 サーラは額から玉汗を大量に流しながら、呟く。


 サーラが手術台に拘束されて数時間。拘束されている手足も痛くなりながら、1つの生理現象に襲われていた。


「お、お手洗いが…」


 モジモジとしながら、股を物理的に止めようと努力する。


「すみません」

「ひゃあっ!?」


 突然声を掛けられたサーラは声を上げて、横に視線を向ける。


 そこには見た事のある少年がいた。


「あ、貴方は…」

「トマスの依頼で貴方を助けに参りました」


 その黒髪の少年は胸に手を当てて、浅くお辞儀をした。


 路地裏で助けて貰った人、森の中、樹氷の中に居た人。


「そ、そうなので…あ…」


 今までその少年に気が向いてて忘れていたサーラは、決壊寸前になった膀胱から黄金の色をした液体が溢れ出した。




 しょわー…




「あ、あ、あ…」


 サーラは自分の下半身と、少年を交互に涙目で見る。

 少し申し訳なさそうに視線を逸らす少年に、サーラはとてつもない程に顔を真っ赤にしたのだった。



 ◇


 まさか漏らすとは…


「……」

「…あ、ありがとうございます」


 俺はサーラを助けた後、自分の羽織っていたローブをサーラに渡す。


「……ズボンを寄越せと言うならお渡ししますが」

「い、いえ!! これ以上は! 大丈夫なので!! もう気にしないで下さい!!」


 顔をまだ真っ赤にしたまま、サーラは手を高速に振った。

 貴族で謙虚、と言うか遠慮するのは珍しい。アスティラ公爵家では遠慮する貴族なんて居なかったんだが。


 …まぁ、それは良いか。


「そうですか。なら、早くここから脱出しましょう。此処に居ても危険です」


 俺はそう言って踵を返す。


「は、はい…あ、あの…トマスは何処に居るのでしょうか?」

「……アイツは恐らく相手と戦闘中かと、それかもう既に此処から離れているか」

「…」


 俺が言うと、サーラは黙り込む様にして下を向く。


 心配なのは分かる。

 だが、此処でこの人を連れた状態で迎えに行くのは危険過ぎる。


「なるほど。それではトマスの安全が確認出来たら此処から脱出しましょう」

「…」

「どうかしましたか?」


 サーラが首を傾げる。



 それが普通の反応、か。

 俺はそれに頷くと、踵を返す。


「分かりました。あまり私の近くから離れない様にしてついて来て下さい」

「はい」


 そう言うと俺はサーラを守り、警戒しながら、元の道を戻った。


 先程と同様、変な鳴き声が聞こえて来る。


 さっき通った道だからと言っても、油断は禁物だ。度々聞こえて来るこの声に、サーラは微かにだが身を震わせている。


 攫われてどれぐらい経ったのかは分からないが、これ以上経ったら精神にも異常をきたしてしまうだろう。


「……失礼になるかもしれませんが」

「はい? なんでしょうか?」

「……早く移動する為、サーラ様を抱えさせて貰っても宜しいでしょうか?」


 俺が後ろを向いて真剣な眼差しで、サーラを見つめる。


 何をするにしても、早いに越した事はない。

 もし、トマスが戦っているとしたら早く助けに入らねばならない。


「え!?」

「静かに、敵に気づかれたらマズイ」

「は、はい…すみません。ですが…その…私重いですし…」

「大丈夫です。女性を抱えられない程力がない訳ではないので」

「そうではなくて…」


 サーラはモジモジと顔を赤らめている。

 そんな顔になるのも分かる。先程のお漏らしの事を言いたいのだろう。だけどそれは命と危機と比べたら些細な事、我慢して欲しい。


「失礼します」

「キャアッ!」


 俺はサーラをお姫様抱っこの要領で持ち上げた。


 手に少し濡れている感覚があるが、後で手を洗えば良いだろう。


「急ぎますよ」


 俺はそう言って、通路を駆けて行った。

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公爵家専属の狩人だった俺、役立たずだったようで解雇されました 〜俺と隣国の没落貴族は協力し、世界に名を轟かせる ゆうらしあ @yuurasia

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