第21話 零鳥 リゼ

 リゼの放った突風は炎を燃え広がせる事なく、鎮火させて行く。

 それどころか、炎を纏っていた樹木はそのままの形で凍らされた。


「少し炎を消すぐらいの風を吹けば…そこまでやんなくて良いんだよ…」


 俺は呆れた風にして、リゼに向かって話しかけた。先程まで10メートル超あった体長が今では、1メートル程になっていた。


「ピィ♪」


 楽しげに足に擦り寄ってくるリゼに対し、頭は撫でると抱き寄せる。


「まぁ…改めて久しぶり、リゼ。この前会った時から大分経ったけどまさか此処まで大きくなってるとは思ってなかったよ」


 リゼと最後に会ったのは2年前。俺がアイスドラゴンを狩り始めた時期だ。自分で言うのも恥ずかしいが、その時の俺は今よりもわんぱくだった。

 公爵に認められた自分の力、数々の魔物を狩っているのだと言う、塗り固められた様な自信で調子に乗っていたのだ。


 アスティラ公爵領から離れて8時間。ファブサール山の麓にある、アイスドラゴンが奥深くに住む洞窟。


 俺はリゼと初めてのアイスドラゴン狩りへと行ったのだ。


 しかし、そこで待っていたのは今まで見た事ない様な、俺にとっての地獄の様な所だった。


 ろくに調べもせずに洞窟の中に入ると、待ち受けていたのはとんでもない極寒の鏡の様に反射する氷の洞窟。


 ファブサール山の気温はマイナス20度。それだけでもとてつもない寒さだったにも関わらず、強風で前が見えない程の吹雪が吹いていた。

 そこで俺達が何とか目的地である洞窟に着いたと思えば、そこは外よりも寒い、マイナス50度の世界。


 強風が無くなりはしたが、それ以上の寒さが俺達を襲った。俺の基本の武器は弓と、素早い軽快な動きだった。それ故に、俺の本来の実力を出せずにアイスドラゴンに挑んだ結果、無様な敗退を喫してしまった訳だが…その時はリゼに助けられたのだ。


 今は10メートル超の大きさがあるが、その時は今の様な1メートル程の大きさだった。


 リゼを怪我させてしまってからは、念入りにファブサール山の調査を行い、狩る事が出来たが…今思うとなんて愚かな行為をしてたのかと顔を覆いたくなる。


「ピィ?」


 俺が恥ずかしそうに頬をポリポリと掻くと、リゼが不思議そうに首を傾げた。


「ははっ、なんでもないよ。それよりもリゼ、村の皆んなは元気にやってる?」

「ピィッ!」


 俺が聞くと、リゼは元気よく鳴く。どうやら肯定しているみたいだ。


 リゼが普段居る所は俺の故郷の村だ。名前はなく、何処にでもある山の中にある小さな村。そこで細々と暮らしている筈だが…


「さっきの体格じゃ暮らすの大変じゃないか…?」

「ピィィィ…」


 項垂れるリゼ。落ち込んでいる…図星の様だ。

 まぁ、あんなに大きくなれば暮らすのも大変になるよな。


 でも、


「安心してくれ。これがあれば村の敷地を少しでも増やしてくれるかもしれないぞ?」


 ジャラッ


 ゼルは袋に入った200万ゴールドのお金を掲げる。


「ピィ? …ピィ…ピィッ!?」


 リゼに袋の中を覗かせると、此方を見て驚きの声を上げる。


「ははっ! こんなに有れば少しは余るだろうからな」


 ゼルがニヤッと笑うと、リゼは突然ゼルの腹を突く様にして嘴を突き刺す。


「な、何だ!? 怒っているのか? 良い事だろ?」

「ピィピィ!! ピィッ!!」


 それに対して、首を横に振るリゼ。

 何だよ? と抱いているリゼを見下ろすが、俺を突き刺す事をやめない。


(も、もしかしてこれが…ツンデレ!!)


 俺は酒場での事を思い出す。


『女の子は恥ずかしがり屋さんですからね。本当の感情を隠す為に、反対の行動をしてしまうんです』


(まさかリゼがこんな反応をするとは…この数年のうちに色んな事があったのか?)


 俺は、とりあえずリゼの頭を撫でる事にしたが、リゼは突くのをやめる事はない。


 どうしたもんかと悩んでいると、




「…何をしてるんですか?」


 背後から突然、聞き覚えのある女性の声が聞こえた。

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