第23話 何者

「まさかあの時の人があそこに居るなんて…顔を見られた訳ではないけど、この服装はもう辞めた方が良いかもしれないな」


 ゼルは木を飛び移りながら、王都へと向かう。


 あそこには魔物の死体がある。近くに居れば、あの魔物を倒した者とされる可能性がある。


 今、Fランクの冒険者は王都からは出てはいけない。


 面倒ごとになるのは目に見えている。


(それなのに俺は…)


「ピィピィ」


 眉を八の字に変え呆れ笑いをしているゼルに対し、リゼがポンポンと羽で叩く。


「ははっ、何だリゼ? 気遣ってくれてるのか?」

「ピィ!」

「ありがとう、リゼ」


 俺は抱き抱えているリゼの頭を撫でる。リゼは気持ちよさそうに手に擦り寄ってくる。


 …可愛い。


 俺は昔、リゼが寝ている隙に身体を調べた事がある。

 何故調べたのか、それは性別を確認するためだ。小さな時はふとした弾みで、疑問に思った事を直ぐに行動に起こしてしまうものである。


 その結果、リゼは女の子だと分かり、その途中で起きたリゼに3時間は嘴で突かれるという事態が発生したのだ。


 その時は、魔物にも人間みたいな羞恥心があるのかと驚いたものだ。


「まぁ、今はそんな事どうでもいいか。とりあえず早く王都へ戻らないと…」


 ゼルはそう呟き、王都へと急いだ。




 *


「ユウッ!! どっちだ!!」

「このまま真っ直ぐです!!」


 私達は今、王都の東の門から森の奥へと進んでいた。


「許せねぇ!! 俺と女の子との出会いを邪魔する奴なんて!? ぶっ潰してやる!!」


 センが1人先を進みながら、道すがら出て来た魔物を切り刻んでいる。




 私達はギルドの酒場でヤケ酒を飲んでいた。


 そんな時だ。


「ッッッ!!?」


 ユウが席から突然立ち上がった。私がユウを見ると顔面を蒼白にさせて一点を見ていた。


「どうしたんだ?」

「い、今、とんでもない魔力の波長が!!」

「魔力の波長が?」

「え、えぇ…凄い…信じられない…」


 ユウは呆然と立ち尽くす。


「行ってみるか…」

「…もしかしたらキメラの件で重要な事かもしれないですしね」


 私は立ち上がり、ユウと一緒にギルドの扉へと向かう。

 あんなに青褪めたユウを見たのは初めてだった…。そこまでの敵…木を引き締めなければ。


「へぇ〜! それでそれで?」

「セン、いつまでナンパしてるんだ。行くぞ」

「あ!? え? ちょっと待て今良い所なんだ!!」


 店員をナンパしてるセンの首根っこを捕まえて私達はギルドから出た。


 そしてギルドから出て、センに事情を話した途端、プルプルと震え出すと真っ先に走り出したのだ。


 センの速さはモルネ火山以来の見せた事がない様な速さを出していて、それに追いつく様にユウを背負って私達は急いで追いかけてた。


 それでこの状態だ。


「センッ! あまり先行するな!! 何があるか分からん!!」

「うるせぇっ!! これ以上俺の女子との時間を邪魔するんじゃねぇ!!」


 …センは随分とお怒りらしい。


 先を走っていくセンに、着いて行く私達。そして数分後、目的地へと辿り着いた。




「おいおい…どうなってんだよ…」

「ここは…」

「…」


 私達は一瞬目を疑った。


 目の前には、驚くほど広範囲に氷の森が出来ていたのだ。

 色々の所を冒険した私達だったが、この様な透き通った氷を見たのは初めてだったのだ。


 しかし、それと同時にとてつもない危険を表わしていた。


「…綺麗すぎる、な」

「あぁ、こりゃあ…」

「…2人共、気を引き締めてください」




 魔法は、魔力純度が多い者程細やかに、綺麗に表わされる。


 土、火魔法なら、それがどれだけ色が濃いか。


 風、水魔法なら、それがどれだけ透き通っているか。




 ここにはユウがとんでもない魔力の波長で来た。


 この氷は水魔法の上位魔法、氷魔法で造られている事が容易に予想出来た。




「私が先行する…」

「「了解…」」


 私を先頭に、辺りを警戒しながら奥へと進んで行った。


 そこには、




「…火まで凍っているのか…」


 しかもこれは中々の濃さだ。Aランク下位の火魔法と言った所だろうか。

 私は一層警戒をしながら、辺りを探索する。


「おい、こっち来てみろよ」


 センの所へ行くと、大きなトカゲの様な形をした魔物。体面には赤い鱗、竜の様な見た目をしている。しかし、爪はグルグルと巻かれている。


 赤竜と土竜の特徴を持ち合わせている…。

 しかも周りの木が折れたり、地面が深く抉れている。戦闘痕だ。


「これ、見てください」


 魔物の近くでしゃがんでいるユウが手招きする。


「あー…紫の血か」


 魔物の眼球からは、紫色の血が流れていた。


(キメラ…)


「はい。それとこれ、よく見てください」


 さらにユウはある所を指さす。そこを注視すると、眼球の奥に小さな羽の様な物が突き刺さっている。


「何だこれ? とるか?」

「…そうですね。セン、取ってください」


 センは解体ナイフで手際よく目の部分だけを解体する。




 数分後。


「…矢が、2本ですか」

「すげーな、1本目の矢尻を正確に狙ってコイツの脳まで達してたぜ」

「……なるほどな、どうやらこのキメラを容易く倒した者が居る様だな」


 会話が途切れる。



 このキメラは、恐らくAランクの魔物を掛け合わせたキメラだ。


 キメラの身体を隅々見るが、目以外の傷は見られない。


 つまりこれを1人で、ほぼ一撃で倒した者がいる。


 しかも魔力純度が高い氷魔法も使える。


「…一体誰がやったんだ」


 3人は一抹の不安を覚えながら、しばらくそこを探索した後王都へと戻った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る