第4話 報酬

 俺はカウンターの中へと入ると、エリナさんの後を追って奥へと進む。


 マジか。何でアルベイルのギルドマスターなんかが俺に…。


 エリナさんが大きな扉の前で立ち止まる。


 コンコンコンッ


「入れ」


 3回大きくノックし、部屋の中から野太い男の声が響く。


「お前がスターキャットを捕まえたという奴か?」


 そこに居たのは、スキンヘッドでいかにも歴戦の戦士の風格を醸し出している体格のいい男だった。


「はい。ゼルと申します」


 俺はすぐ様、片膝を着き頭を下げる。


 ギルドマスターというのは伯爵家の貴族と同じぐらいの権力を持つと言う。下手な言葉遣いをすると首を刎ねられかねない。

 しかも此処は冒険者の国とも言われる王都アルベイル。そこでギルドマスターをやっているのだ。それ以上の権力を持っているだろうと、容易く予想出来た。


「おい、今すぐそれをやめてくれ。そう言うのは苦手なんだ」

「しかし…」

「はぁ、じゃあ命令だ。その言葉遣いと頭を下げるのをやめろ。普段通りでいい」


 俺は言われた通り立ち上がると、ギルドマスターは俺に手を差し伸べてる。


「…よし。じゃあ改めて、俺は王都アルベイルのギルドマスターをしているガンツだ。宜しくな、ゼル」

「宜しくお願いします。ギルドマスター」


 俺はギルドマスターと握手を交わす。


「まだ少し堅いな。名前で呼べ」

「え、でも…」

「あー! 命令だ!」

「…分かりました、ガンツさん」


 表情から見る限り、この人はどうやら貴族とかそう言うかたっ苦しい事が嫌いなんだろう。外見とは正反対で親しみやすい人の様だ。


「おし、まぁ座ってくれ」


 部屋に置いてあるソファへと座るのを勧められ素直に座ると、対面にガンツさん、その背後にエリナさんが佇んだ。


「ゼル、どうやってスターキャットを捕まえた?」


 神妙そうな顔で聞いてくるガンツさんに、興味津々そうに頷くエリナさん。


「どうって…普通に見つけて首根っこを捕まえて、ですかね?」

「……いや、普通は見つけるのも苦労するし、首根っこを捕まえるなんて出来ないと思うんだが」


 ん? そうなのか? て事はこれは俺の運が良かっただけ? 偶々スターキャットの調子が悪かったとか?


「そうなんですね…て事は俺は凄いラッキーだったって事ですね」

「……そう、だな。そう考えるのが普通だ」


 何処か不審そうに此方を見て唸っているガンツさん。

 本当なら星が流れる速さで逃げられていたのかもしれないのだから、とてつもないラッキーだったのだろう。それよりも…


「それよりも俺は冒険者になれるんですよね?」

「ん? 何の事だ?」

「この試験を合格したら冒険者になれるって聞いたんですけど?」


 ガンツさんが後ろにいるエリナさんへと視線を向ける。それからエリナさんは目線を逸らす様に、目が動く。


「…はぁ。なるほどな。大体状況は把握した。安心しろ。冒険者になれるぞ」

「よかった…」


 ギルドマスターから言われたらもう確実だな。もう心配する事はない。


「今、ライセンスを発行する。エリナ」

「は、はい!」


 ガンツさんは睨む様にしてエリナさんの名前を呼ぶと、焦って部屋から出て行った。何故焦っているのかは分からないが、まぁ、急いでくれるのはありがたい。


「さて、じゃあ報酬の話に移ろうか」

「はい?」

「報酬は300万ゴールドだ」

「…はい?」


 耳が遂におかしくなったのかもしれない。昔、至近距離でドラゴンの咆哮を喰らった時のが今になってやって来たのかもしれない。


「あの、すみません。今なんて?」

「だからこの依頼の報酬は300万ゴールドだ」


 ガンツさんの口をジッと見ていたが、どうやら聞き間違いではないらしい。……何度聞いても同じ金額が聞こえる。て事は…!!


「ほ、本当に300万ゴールドなんですか…スターキャットを捕まえただけで…」

「何だ、報酬金も聞いてなかったのか」


 呆れれて物が言えないとでも言いたげなガンツさんが、肩をすくめる。


「まさか試験なのに報酬が貰えるとは思ってなくて…。それに俺なんかが、そんなに貰っていいのか…」


 俺が公爵家で働いてた時は規定数以上の狩りをさせられたが、月に何度も狩りに行かされ、休みも無しに何十匹と狩った。しかし給金は上がる事は無かった。


「…ゼル。働いた者が相応の報酬を貰うのは当たり前な事なんだ。何故お前が自分をそんなに卑下するのか分からないが、運も実力のうちと言うだろ? 此処は素直に受け取ったらどうだ?」


 ガンツはソファの肘置きに手を置き、頬杖をつく。


 運も実力のうち、か。そんな考え1度もした事なかったな。最近、公爵家で狩りが上手くいってなかったからかもしれない。必要以上に否定的になっていたのかもしれない。


「そう、ですね。では頂いておきます」

「おう! そうしろ!!」


 ガンツさんは大きく高笑いをする。


「あー、あと報酬金は後日渡すから、2日後に来てくれ」

「はい。分かりました」


 よし、じゃあとりあえずこの報酬金の3分の2を村へと送るか。


 ゼルは晴れやかな気持ちで村にいる皆んなの笑顔を思い浮かべて、自然と笑顔になるとガンツに礼をして部屋から出た。

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