第33話 自己満足

 ゼルは天井からパラパラと土埃が落ちくる中、子供の腕を強く掴んだまま言った。


「…お前達にどんな事があったのかは知らないけど、俺は無理矢理にでも連れてくよ」


 俺はそう言うと、子供を担ぎ上げる。


 ハッキリ言って此処で子供達を見捨てていくのは簡単だ。見捨てた方が安全に地上へと帰れる。


「なんで…


 子供達が続きを言う前に、中にいる5人の子供を担ぎ上げる。


「ふぅーっ…ちゃんと掴まっててくれよ?」



 だけど助かるかもしれない命がある。


 それを見捨ててまで生きた自分自身が、後に後悔する事のが嫌なだけ。


 それだけだ。



 俺は額から一筋の汗を流し、足に今までにないぐらい力を入れた。


「ふっっっ!!」


 地面を踏み締める度に大きなヒビを作りながら、ゼルは地上へと急いだ。


 そして何個もの鉄格子を通り過ぎて行く中、ゼルは鉄格子の中にいる動物や魔物を横目に見ながら呟いた。


「…ごめん」






「はぁ、はぁ、間に合った、な」


 息が途切れ途切れになりながらも地上の建物の隠し扉から出て、少し建物から離れた地面に子供達を下ろす。


 そして息を整えながら、子供達の様子を見る。そこには子供達も疲労困憊の様子で倒れている姿があった。


 それもそうだ。子供達も精一杯俺の身体に捕まっていたのだ…あの細くて小さな腕で。


「何で…助けたの…私達はもうこんな足じゃ…」


 先程牢屋の中で話していた1人の子供が、ボソボソと話す。


「…でも掴んでたろ。俺の身体に一生懸命」

「!!」

「死にたい奴ならあそこで手を離せばよかった。離した瞬間に地下深くの瓦礫の下で息絶えれたんだから…それなのに生きてるって事は、心の底では生きたいって思ってるって事だよ」

「ッ!!」


 子供は言い返せない悔しさからだろうか、涙が出て来そうな目で此方を睨んでいた。


 次いで俺は淡々と言う。


「…俺はお前らに選択の余地をあげただけ。例え腱が切れていたとしても、人は生きていける、そう思ってただの自己満でお前らを助けただけだ。だからこれから生きるのも死ぬのもお前達次第」


 息を整えた俺は子供達に背を向ける。


「ま、待って!」


 子供は手を伸ばし呼び止めようとしたが…


「じゃあな」


 一言だけ別れの言葉を告げ、俺は




「ピィ♪」

「ん? 何だリゼ?」


 建物を出た途端、カバンから出て俺の顔に擦り寄って来るリゼは、何処か機嫌が良さそうで肩の上でステップを繰り返していた。




「こっちだ!!」

「早く手を貸せ!!」

「早く警備に…いや! 王城に知らせに言ってくれ!!」


 そこはスラム街の中心地。

 多くの人がごった返しており、至る所で悲鳴、叫び声が聞こえていた。


 その理由は、突然地盤沈下したから。半径100メートルも及ぶ建物が全壊し、多数の人がその瓦礫の下敷きになっていた。

 さらにスラム街だった為人口密度が高く、範囲は王都の中では小さいにしても、大きな被害を及ぼしていた。


「…お姉、ちゃん」


 1人の子供が巻き添えになり、息を絶え絶えにしながら瓦礫の下に居る事をゼルは知らない。




 そしてその頃ゼルは、


「貴方は…」

「? 私と何処かでお会いしましたか?」


 少し顔色の悪いトマスと出会っていた。


 ゼルが普通に道を歩いていた時、裏路地から飛び出して来たトマスの身体からは汗が噴き出していて、とても急いでいる様子が見てとれた。


 1度は関わった人物。その人物が汗だくで目の前に飛び出して来た所で、思わず声を掛けてしまったゼルは心の中で頭を抱えた。


(貴族にはあまり関わり合いたくないのに…)


「あ、いえ、少し知り合いに似ていた様ですけど違った様です。すみません」

「! その声…」


 トマスは少し驚いた表情を浮かべた。


(声…? あっ!! しまった!!)


「貴方はあの時私達を救ってくれた少年ですね!?」

「…ぬかった、か」


 このトマスって言う人に合図を出した時に声を出したの忘れてたな。まさかあの一瞬での声を記憶してるなんて…。


「実は貴方に頼みたい事があるんです!!」


 声を大きくしてトマスはゼルの両肩を掴む。


「頼みたい事?」

「サーラ様を探して下さい!!」

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